ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第39回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第39回

漫画家にとって、
「仕事部屋」はそれ自体が
仕事道具であると最近気づいた。

だが私の机は非常に狭い、何故なら、空のペットボトルが3本、タンブラーと空き缶が2つ、パブロンの空箱が4つ、が置かれているからだ。ちなみに、これでも6割ぐらい省略されており、床も机の上と同じようなレイアウト、という統一性のあるデザインになっている。

そもそもエッセイをやる奴というのは恥の程度がどんどん低くなり、大体のことはネタとして表に出してしまうのだが、私の部屋は「エッセイストでさえ恥じ入るレベル」であり、面白くない以前に不快に思う人がいると思うのでとても公開することはできない。

もちろん、部屋がキレイなら面白い作品が描けるわけではない。世の中には、社会性と引き換えに才能を授かったタイプの作家もいるので、海外のゴミ山みたいな部屋から生まれた名作も必ずあるはずである。

しかし、汚い部屋というのは、作品のクオリティには影響しなくても、漫画家の精神には確実に悪いのである。

まず私は仕事部屋に入って椅子に座るまでの1メートル弱の間に必ず何か踏んづけるのである。
何か、というのは大体何かのプラスチック片なのだが、着席した時点で、両足の裏に謎のプラスチック片がへばりついているのである。もうこの時点でテンションが下がる。

そして机が狭いため、頻繁に机の物が床に落ち、その音にイチイチビクっとしなければならない。そして落ちたものをまた踏むというループが起こる。

タダでさえ、精神を病みやすい(当社比)作家の心がさらに蝕まれるし、正直、常人も健康を害すと思う。もちろん人体に有害な何かが発生しているという意味でだ。

こんな部屋でも名作が生まれていれば「天才の部屋って感じしますね」という謎の説得力が出るのだが、御存じの通り新種の虫ぐらいしか生まれていないので余計病んでしまう。
当然だが病んだら漫画など描けないのである。

環境でこれだけダメになるのだから、逆に言うと、道具や身の周りを変えるだけで劇的に良くなる可能性もあるということでる。

現在上手くいっていない人は、単純に自分の実力や努力不足とは思わず、まずパソコンと思っているものがアマゾンの空箱ではないか、何より部屋から有害物質が発生していないか確認することをお勧めする。

ハクマン_38回

(つづく)
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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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