ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第78回
あれから2週間。
確定申告の進捗は
「現状維持」である。
そんなわけで3月15日までに確定申告をしなければならないのだが、私は税理士に依頼をしているため、3月15日に税理士に必要書類を提出、ではダメなのである。
そんなのは雑誌の発売日に原稿を出すようなものだ。
「納期」というのはどこの世界にもあると思うが漫画業界の納期に対する意識は少し独特なのである。
「この日に葬式だからこの時間までに設営してくれ」という依頼に対し「この日はフェイク。本当の葬式は3日後だからその日までに組めば間に合う」とは思わないだろう。
だが、それを思うのが漫画業界であり、漫画家である。
編集者が作家に伝える締め切りというのは、破られること前提なので大体本当の締め切りより何日か前を伝えるのだ。
だが作家もそれをわかっているため、伝えられた締め切りを2、3日過ぎるのが前提な作家もいるし、それで大体どうにかなってしまうのである。
よって「確定申告は3月15日まで」と言われても、それはこちらの目を欺く偽期日のような気がしてならないのだ。
だからこちらが15日に資料を提出し、税理士が18日ぐらいまでに申告をすれば良いのではないか、と思いそうになるが、それは「漫画4P月曜朝一までにもらえたらいいっす」と金曜夕方に言うのと大して変わらないことだと思われる。
人は自分の専門外のことに関して感覚が雑になってしまうことがある。
もっと簡単に言えば「プロならこんなのパソコンですぐできる」と思いがちなのだ。
なぜそこまで「パソコン」に全幅の信頼を置いているのか。
パソコンを使ったことがない戦前生まれのパイセンや北京原人ならまだわかるが、パソコンを使っている人間だってその感覚だったりする。
己が「パソコン」でそこまで全知全能の存在になったことがあるだろうか、それはプロも同様であり、決してプロと書いて「ゼウス」と読むわけではないのだ。
実際、税理士が個人の確定申告書類を作るのにどれだけ時間がかかるかのかはわからないが他業種に対し「このぐらいすぐできるだろう」という意識ではこちらも金夕月一野郎に文句を言うことができない。
それに仮にすぐできるとしても「こちとらお前とだけ仕事をしているわけではない」というのもある。
作家の場合は本当に1社としか仕事がない、蜘蛛の糸1本で人生という海底2万マイルに挑む生粋のスタント野郎が普通にいる世界だが、税理士はそうではないはずである。
例え「お客様は神様」が真実であっても「唯一神」ではないのである。
同じ神なら「納期破壊神」より「前日納入神」の方についていくに決まっている。