ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第90回

ハクマン第90回
デジタルにも
弱点はある。
今その局面に直面している。

よって「不悪口」などジェネリックFを使ったりしているのだが、やはりリズム感に欠ける。
それを打開する鍵を我らがファックスが握っている気がする。
ファックスのスのサイズだけ4pt にして残りを 48pt ぐらいにするという東スポ方式で合法Fが成立するのではないだろうか。
もしそれに物言いが付いたら「日本の伝統工芸品を馬鹿にする気か」と反論することができる。
実際、現在でも土俵に女が上がれなかったり、男が巫女になれなかったりと、伝統や宗教というのはコンプラに対抗できるほぼ唯一の手段なのである。
日本のオフィスには未だにファックスなどという歴史文化財が置いてある、という嫌味を逆手にとった戦法だ。

コンプラに対抗、ましてコンプラを唾棄すれば破天荒で面白い漫画になるというわけではない。そんなの未だに血で描いた原稿をガロに投稿しているやつと同じ発想だ。
いかにコンプラをくぐり、時にはそれすら利用して面白いものを作っていくのが今後の作家に必要な才覚と言えるだろう。

そんなわけで、現在は全ての作業をデジタルで行なっている。
そのおかげで、紙やインクなど消耗品を買う必要もないし、何よりスクリーントーンを買う必要がない。
トーンは1枚数百円もする上に実質使い捨てである、さらにそれを何種類も用意しなければならない。よって烈海王とかの同人誌を作るのも大変だったのだ。

それがデジタルであれば無限に貼り放題だし、烈海王のトーンも重ね放題である。

だがデジタルにも弱点はある。デジタルの方が消える時は跡形もなく消えるし、停電になると詰みやすい。そして定期的にパソコンなどを買い替えなければいけない。

今その局面に直面している。
去年、デスクトップパソコンの挙動がおかしくなったため、急ぎで iPad を買い、今は全てを iPad で行なっているが、やはりデスクトップも欲しい。

iPad では役不足というわけではない。むしろ iPad の方に私の役が不足している。しかし、この iPad もいつ「俺はただのまな板です」と言いだすかわからないのである、そんな時すぐ使える予備機は必要だ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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