ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第94回

ハクマン第94回
世の中には
意味のない自己否定を
している人間が多い

漫画も同様であり、いくら自分が駄作と思っていても、それを買ってくれた人間がいる以上「あの作品は失敗だった」とは言ってはいけないのである。
よって私も自分のことは「酸素の無駄」と評しても自分の作品のことは「地球資源の無駄」とは言わないし、面白くないとも言わない。ただ「売れていない」という事実だけを言うにとどめている。

つまり他人のためにも「自信」はある程度持った方が良いのである。
しかし自信を持つ理由が何一つ見つからない、というケースも稀によくある。

だが物事というのは常に表裏一体である。つまり自信がない理由はそのまま自信を持つ理由にもなるのだ。

「顔に自信がない」というのは逆に言えば「ブサイクに自信がある」ということである。
そういう意味では私も部屋の汚さには自信ネキだし、それを注意する人間がいたら「じゃあお前はこの部屋で生きていけるのかい?」と、環境に対する強さへの自信もアピールすることができる。

このように全ては自分の受け取り方次第でネガティブにもポジティブにもなるのだ。
私の本もネガティブに言えば「売れてない」だがポジティブに言えば「ワンピースの1億倍レア」と言えるので、持っている人も売れてない本を買ったのではなく「周りが誰ひとり持っていない希少本を持っている」と解釈し、自分の見る目に自信を持っていただきたい。

だが、その自信を面に出しすぎると、今度は「サブカルクソ野郎」という、この世で最もウザい生物としてギネスに載っている奴扱いされるので注意が必要だ。

結局、自信の有無ではなく、それを他人にアピりすぎてしまうのが問題なのだ。

そんなに他人に認めてもらわなくても、そこが他人の私有地でなければ人は存在して良いのである。

(つづく)
次回更新予定日 2022-11-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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