ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第95回

ハクマン第95回
ついに。
部屋に○が現れた。

しかし、それに反応したのが夫である。
私が滅多に出ない自分の部屋を出て別の部屋で仕事をしていたので、ついに己の部屋を潰してしまったため、別の部屋に領土を拡大しに来たと思われたようだ。

よって、いつもは私の様子など全く見に来ないのに、数時間の間に2回も「汚すなよ、絶対汚すなよ」と言いに来た。
これは「汚せ」という前振りなのかと思ったが、人はそうやって離婚をしていくのだろう。

部屋にゴリラが出たことを説明しようと思ったが、今度はゴリラを発生させたことをとがめられるに決まっている。
よって秘密裏にバルサンを焚いて、部屋に戻るつもりであった。

その作戦は、途中まで驚くほどうまくいった。
例えバルサンを焚いても、ゴリラを本当に仕留めたかどうかは普通は確認できない。
よってその後もいつ出てくるかわからないゴリラにおびえながらの仕事になるはずであった。

しかし、件のゴリラは煙により燻りだされた状態で息絶えてくれていたのである。

だが場所に問題があった。
私の部屋の入口前で倒れていたのである、しかもまだ少し生きていたのだ。
何故奴らは今際の時「仰向け」になるのか、どうせ死ぬなら少しでもお前のSAN値を道連れにしてやるというゆるぎなき決意を感じる。

ともかく部屋の前に陣取られたら部屋に入ることもできない。

結局夫を呼び、すべてをゲロることになってしまった。

決して私の部屋から発生したわけではなく、ちょっと振り向いてみただけの異邦Gだと主張したが、おそらく信用されておらず、また私の株がストップ安を記録した。

だが、ゴリラの潜伏先をなくすため一時的に床が出現したため、その勢いで古いPCを搬出、新しいPCを入れることができたのが不幸中の幸いである。

ちなみにバルサンを焚くまで他の部屋の固い椅子を使っていたため、完全に腰が破壊された。

良い道具を使ったからと言って良い漫画が描けるわけではない。だが椅子だけは良いものを使った方がいい。

(つづく)
次回更新予定日 2022-11-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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◎編集者コラム◎ 『バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課』松嶋智左