ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第96回

ハクマン第96回
新しく導入したPCが
青く光っている。
特に意味はないらしい。

そしてもう一つは締め切りを破ることによって起こる「他人への迷惑」である。
迷惑が担当にしかかからないのであれば、むしろ積極的に破りたいし、それでこちらが餓死しても悔いはないが、おそらく他の人にも迷惑がかかってしまう。
それに、原稿ができないことで死ぬのは基本的に作家だけである。編集者はちょっと困るだけで、それで給料がなくなったり、まして解雇など、会社が突然イーロン・マスクのものにならない限りありえない。
つまり相打ちを狙うのに「原稿を描かない」というのはあまり効果がないし遠回りすぎる。ダイナマイトを腹に巻いて突進など、もっと確実で早い方法をとった方がいい。

それに「他人に迷惑をかける」ということは「自分の信用を失う」ことであり、結局自分の不利益になってしまう。

「部屋の片づけ」というのは、例え締め切りを設定しそれを破ったとしても、自分のマイナスにも他人への迷惑にもならないため、無意味なのである。
効果を出したいなら「今週末までに掃除をしないと部屋が爆発する」など、己へのペナルティが必要なのだ。
ただし私の部屋は掃除をするより一度爆発して更地にした方が早いので、そのような条件ではやらない可能性が高い。
よって「締め切りまでに掃除しないと他人の部屋が爆発する」など、他人への迷惑を条件にした方がよい。
もちろん爆発するのが「担当の部屋」だと、むしろ締め切りが過ぎる瞬間を三角帽子着用とクラッカー持参でカウントダウンしてしまうので「義実家」など、自分のせいで爆発したらシャレにならない場所を設定しなければいけない。

よってPCも完全に壊れて原稿ができず、自らに不利益が起こりそうな段階になってやっと購入するのが常だったのだが、今回はボイスチャットで「そろそろPCを買わなければいけない」と同業者にこぼしたところ「だったら自分の知人で自作PC販売を個人でやっている人がいるので紹介しようか」と言われたのだ。

どうやら正規で購入するよりそちらの方が安いらしい。
コミュ症特有の「店主にこだわりがある個人経営の店より可も不可もないバイトで構成されたチェーン店を好む性質」により、最初は遠慮して、いつも通りヤマダか機械的通販で購入しようかと思ったが、自分のような者は逆に人を挟んだほうが迅速に動くと思い、頼むことにした。

結果としては思ったとおり、すぐ購入を決めることができた。さすがの私も紹介された人に対し音信不通になるというエクストリーム人間関係に挑戦することはできなかった。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

真山 仁『タングル』
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.70 うなぎBOOKS 本間 悠さん