ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第96回

ハクマン第96回
新しく導入したPCが
青く光っている。
特に意味はないらしい。

しかし、一応自作PCなので、こちらの用途に合わせるため、スペックなどの確認があったのだが、それが一つもわからなかったのである。

仮にも職人が、自分の商売道具にここまで無知でよいのだろうか。医者が「どういう理屈か見当もつかないが、とにかく治る」と言って患者に薬を出しているようなものだ。

とりあえず漫画が描けるスペックであれば良いこと、そしてできれば「静か」であることを所望した。

以前使っていたPCは当時としてはハイスペックであったが、それ以上に音がうるさかった。
音というのは想像以上に人の精神をむしばむものである。過去には騒音が原因で殺人事件が起こったことがあるぐらいだ。
よって、ダメ元で静かにしてくれとお願いしたところ、本当に静かなPCが来たので驚いた。
むしろ前のPCのうるささは何だったのか。中で無呼吸症候群の中年が寝ていたとしか思えない。

そして、新しいPCはファンの部分が「青く光っている」のだ。
ゲーミングPCなど、ハイスペックPCと言えばやはりカラフルに光っていることが特徴である。

もしかしてこれは無駄光りではなく、機能に関係しているのだろうか。
調べてみたところ「特に意味はない」そうで、ファン部分の冷却性を上げるためPC本体がメッシュ状になり、そこから光が漏れるようになったので、せっかくだから色を付ける文化が始まったそうだ。

つまり、田舎のヤンキーの車が青く光っているのと同じ流れである。

青く光っていることに文句はない。むしろ機能に関係ないなら「7色に光らせてくれ」とリクエストすればよかった。
もし次回自作PCを注文するなら「静かで7色」と注文したい。
もしかしたら「ギンギラギンにさりげなく」とはゲーミングPCのことを指していたのだろうか。

ハクマン第96回

(つづく)
次回更新予定日 2022-11-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

真山 仁『タングル』
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