【『鎌倉殿の13人』スタート】「13人」を詳しく知るための3冊の本

2022年1月の放送スタート以来、早くも話題を集めている大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(脚本:三谷幸喜)。その主要キャラクターとなる、「13人の合議制」を構成した歴史上の人物について、詳しく学ぶことのできるおすすめの本を3冊ご紹介します。

2022年1月9日からスタートした新しいNHK大河ドラマ、『鎌倉殿の13人』。小栗旬を主役に据えた本作は、『新選組!』『真田丸』に続く三谷幸喜脚本作品という点からも、注目と期待が集まっています。

平安時代末期から鎌倉時代前期を舞台に、源平合戦と鎌倉幕府が誕生する過程で繰り広げられる駆け引きと人間ドラマを描く本作。主人公は北条義時で、タイトルの「13人」とは、鎌倉幕府で敷かれていた「十三人の合議制」を構成する御家人たちを指しています。

今回は、『鎌倉殿の13人』をより楽しむために、源平合戦と鎌倉幕府について詳しく知ることができるおすすめ本を3冊ご紹介します。

『源頼朝 武家政治の創始者』(元木泰雄)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B089YNFRRH/

『源頼朝よりとも 武家政治の創始者』は、院政期から鎌倉時代にかけての政治史を専門とする歴史学者の元木泰雄による、源頼朝の生涯を綴った伝記本です。

久安3年(1147年)に河内源氏の武将・義朝の息子として誕生し、建久10年(1200年)に鎌倉で死去した頼朝。12世紀末、鎌倉幕府を開いた張本人としてよく知られている源頼朝のイメージは一般的に、壇ノ浦の戦いで平氏を滅ぼし、その後敵対する武士勢力もすべて滅ぼした上で武門の頂点に立った冷酷非道の政治家──といったものかもしれません。

しかし、著者の元木があとがきのなかで

彼の行動は、薄氷を踏む思いで築いてきた権力を守るための、究極の選択だったのである。

と記しているとおり、本書は、知略を巡らせ乱世を生き抜いた頼朝の手腕を、ときには評価もしつつ丁寧に読み解いていくような1冊です。頼朝の一生は、血で血を洗う争いを何度もくぐり抜けた、まさに波乱万丈と呼ぶべきものでした。

特に読み応えがあるのが、頼朝の弟・義経よしつねと頼朝が対立した理由を巡る論考。歴史書『吾妻鏡あづまかがみ』には、頼朝の許可を得ずに義経が後白河法皇から冠位を得たことに頼朝が激怒し、これが頼朝と義経の対立の発端になったと書かれています。この人事は後白河の謀略で、義経は後白河に利用された政治的に無能な人物であった──というのがかつての一般的な見方でしたが、元木は“こうした見方は成り立たない”と言い切ります。

義経と後白河の意向によって、義経は受領となりながら、検非違使に留任したのである。検非違使は在京活動が原則であり、義経は京にとどまらざるをえないことになる。(中略)したがって、検非違使留任は、鎌倉への召還を防ぐ方策であった。義経は後白河と結んで鎌倉召還を拒否したことになる。そこで頼朝は伊予に地頭を補任し、義経の国務を妨害した。

つまり、両者の対立は、頼朝による鎌倉召還に義経が応じなかったことに起因するというのです。このような新たな視点から歴史を再解読することができる点でも、非常に面白く示唆深い1冊です。

『執権義時に消された13人 闘争と粛清で読む「承久の乱」前史』(榎本秋)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B09LLRSXWC/

本書は、歴史解説書などを中心に手がける、文芸評論家の榎本秋による1冊です。
武家政権の基礎を作り上げた源頼朝亡きあと、一度は頼朝の長男・頼家が18歳の若さで鎌倉殿の地位に就くものの、幕府の御家人たちは頼家が頼朝のような独裁的権力を振るうことを許しませんでした。そこで立ち上がった新しい政治体制が、13人の宿老による合議体制──すなわち、「十三人の合議制」です。この“13人”は、頼朝をかつて支えた有力武士たちと官僚たちによって構成されていました。

・北条氏(北条時政、北条義時)
・比企氏及び縁近いもの(比企能員ひきよしかず、安達盛長)
・三浦氏及びその一族(三浦義澄みうらよしずみ、和田義盛)
・そのほかの有力武士(八田知家、足立遠元、梶原景時かじわらかげとき
・実務官僚(大江広元、三好康信、中原親能なかはらのちかよし、二階堂行政)

というのがこの“13人”の内訳です。頼朝の死後、幾度も繰り返された激しい内乱の末に幕府の主導権を握ったのは北条氏でした。本書では、北条氏が頼朝の側近や有力な御家人たちを次々に排し、執権として権力を手中に収めるまでの過程を、13人それぞれにスポットを当てつつ、社会生活のなかで使える“教訓”も交えながらわかりやすく解説しています。

たとえば、頼朝の外威として権威を誇るも、北条氏の策略によって謀反人とされた比企能員。著者の榎本は、比企氏が滅亡した「比企能員の変」を、幕府の見解(頼家と比企能員による「北条時政を討つ」という密談が時政本人の耳に入ったため、身の危険を感じた時政が比企氏を返り討ちにしたという説)と比企氏側の見解(密談の事実はなく、北条氏の独断による軍事クーデターであったという説)の双方から紹介した上で、

ここで時政の振る舞いを卑怯と謗るのは容易い。しかし、ギリギリの状況に追い込まれた時に一か八かの賭けに出る決断力と、その後に正当性を得るための行動力は称賛されるべきであろう。(中略)
もちろん、現代を生きる私たちの視点で考えた時、「いざとなったら相手を殺す」などという手段は取れない。しかし、絶体絶命の状況に追い込まれた時に使える反則ギリギリの手段を確保しておくこと、そして使わねばならぬとなったならば躊躇せず使い、その後は正当性の確保に全力を賭けること。比企氏の乱における時政の振る舞いから、これらの教えを導き出すことができる。

と解説しています。鎌倉幕府に関わった宿老たちにまつわる基礎的な知識とともに、ユニークかつ実用的な政治分析も味わうことができる書籍です。

『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』(松村邦洋)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B09NBNFBNG/

『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』は、芸能界No.1の歴史通としても知られる、タレントの松村邦洋による1冊です。「三谷幸喜の大河は気になるけど、歴史のことは正直よくわからない」「主要キャストが13人なんて多すぎ……」と感じている方にはぜひ入門編として読んでいただきたい、キャッチーでユーモラスな歴史解説本となっています。

小学生のときに見た大河ドラマ『草燃える』をきっかけに、鎌倉時代が大好きになったという松村。頼朝亡きあとの鎌倉殿の権威争いを、松村は“御家人たちの仲間割れと生き残りのトーナメント”、“御家人たちのアウトレイジ”と呼びます。

頼朝が突然死んでから、早くも始まるのが権力争い。二代目将軍・頼家の、比企一族をバックにカン違いした振る舞いに、実の母親の政子は北条家との板挟みになって苦しむんですけど、そんな政子の心のうちとは関係なく、頼家は御家人たちに権限を取り上げられて、しまいには伊豆の修禅寺に幽閉されて殺されるんですよね。

それと同時に進んでいくのが、いっしょになって平家と戦ってきた御家人たちの仲間割れと生き残りのトーナメントでしてね。梶原景時、比企能員、畠山重忠、和田義盛……という荒武者たちが、暗殺や謀略で毎週のように失脚したり殺されたり。しかも頼朝の後を継いだ頼家、実朝も若くしてその謀略戦の犠牲になっていくんですよ。そんな修羅場の中で、頼朝未亡人の政子を表看板に持つ北条時政、そして政子の弟、義時がしたたかに生き残っていきます。

北条政子と義時の関係を、吉本興業の創業家に例えて“吉本せいさんと、その弟の林正之助さんのコンビとおんなじ”と評したり、“(歴代大河ドラマの)『草燃える』『時宗』『太平記』の3つを見ておくと、鎌倉時代はもう、100点満点でわかる”と紹介するなど、歴史の要点をぱっと掴んで教えてくれる松村の解説は、わかりやすさという点では群を抜いています。

絶妙な例えの連続に笑いながら読み進めるうちに、いつの間にか鎌倉時代について詳しくなっているような本書。松村の公式YouTubeチャンネルの、『鎌倉時代の13人』みどころ紹介動画とも合わせて見てみると、より楽しく歴史が学べるはずです。

おわりに

これまでの大河ドラマは戦国時代、江戸・幕末を舞台にした作品が多く、鎌倉時代にスポットが当たるのは久しぶりのことです。源平合戦や鎌倉時代の熾烈な政権争いに関心のある歴史ファンの方にとっては、『鎌倉殿の13人』はまさに待ちわびた作品だったのではないでしょうか。

今回ご紹介した3冊は、鎌倉時代好きの方にとってはもちろん、大河に出演するキャストのファンの方や三谷幸喜ファンの方にとっても、それぞれ違った角度から楽しんでいただける書籍のはずです。ぜひ、スタートしたばかりのドラマと合わせて味わってみてください。

初出:P+D MAGAZINE(2022/01/24)

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