スピリチュアル探偵 第16回

スピリチュアル探偵 第14回
かつて獣医を夢見た探偵。
酔狂にも、ペット霊視を体験!?

次々に明かされる我が愛猫の性格!?

 ちなみに事前に送っておいたのは、僕の名前と猫の名前、そして写真を8枚(←多めに送ってしまった)のみ。本当は小鈴の生年月日も求められていたのですが、もともと保護猫なので「不明」としました。

 これらの情報だけで、どうやって40分間も話をもたせるのか。こちらとしてはお手並み拝見といった気分ですが、先生は構わずうちの小鈴の性格分析を続けています。とりわけ印象的だったのは次のような言葉です。

「小鈴ちゃんはかなり聡明で、ちゃんと考えている子ですね。もちろん本能には逆らえないから、よくいたずらもしちゃうんですけど、自分が置かれている状況や家族のことなど、しっかり理解していますよ」

「根本的には気まぐれな性格だけど、構ってちゃん。わかりやすく言えばツンデレですよね」

「ごはんにはとくに不満はないみたいですけど、お水だけはもう少しまめに替えてほしいと願ってますよ。あと、綺麗好きなのでトイレの掃除もまめにしてあげてください」

 次々に小鈴の胸の内を語る先生。どれも心当たりのあることばかりです。……しかし、これってすべての猫に当てはまることなのでは? そんな疑念がむくむく湧いてきます。

 その一方で、何かを言われるたびに愛らしい小鈴の姿が目に浮かぶので、どうも意地悪な気持ちになれず、ケチをつける気になりません。これは愛猫家心理を逆手にとった、ペット霊視の思わぬマジックなのかも。

 とはいえ、40分なんてあっという間ですから、あまりおとなしくもしていられません。そもそものペット霊視のからくりについて、少しひもといてみることにしましょう。

霊視できるのはどんな動物?

「ちなみに先生には今、うちにいる小鈴の様子が視えているんですか?」

「うーん。視えているというよりは、イメージを共有しているといったほうが正確かもしれないですね。小鈴ちゃんが持っている感情や感覚とシンクロしている状態です」

「ええと、それは写真だけでシンクロできるものなんですか?」

「そうですね。ただ、1~2枚だと繋がれないことがあるので、いつも5枚用意してもらうようにしているんです」

 ほほう……。事実ならとんでもない能力じゃないですか。

「ってことは、小鈴が普段何を考えているのか、先生にはすべて伝わっているわけですか」

「(ニッコリしながら)その通りです」

「日常の不満やら彼女が望んでいることなど、何でも?」

「(やはりニッコリしながら)そうですね」

 結構とんでもないことを言っている気がしますが、あまりに自信満々なので、うっかり「本当なのかも」と思ってしまいそう。しかし、ここは大きな深掘りポイントです。

「今この瞬間、家で小鈴が何を考えているのか、わかるんですか?」

「ざっくりとは」

「では、先生を通して、『もう少ししたら帰るからねー』と伝えていただくことはできますか」

「それは無理なんです」

「………」

シンクロしていると言っても、コミュニケーションは一方通行のようです。若干の香ばしさを嗅ぎ取ったことで、こちらもエンジンがかかってきました。

「ちなみに動物なら何でもいけるんですか?」

「ええ、写真もしくは実物が目の前にいれば、たいてい大丈夫ですよ」

「牛でも馬でも?」

「もちろん」

「そしたら、競馬やったら最強じゃないですか。走る馬に直接コンディションを聞けるんですよね?」

「あはは、確かにそうですね。そう甘くないでしょうからやりませんけど」

 瞬発的にこの人を競馬場に連れて行って予想させる企画を思いつきましたが、残念ながらのってこなさそう。

「たとえばレストランでステーキが出てきたら、『熱いよう!』とか『食べないで!』とか言ってるのが聞こえたりするんですか?」

「いや、さすがに生きてる動物じゃないと……」

「ですよねえ。じゃ、鳥類とか爬虫類もいけますか?」

「うーん、爬虫類は無理ですね。昆虫もそうだけど、あの子たちは生物としてのベースがまったく違うので。たぶん感情もないんじゃないかしら。あ、鳥はいけますよ」

 鳥はいけるのかよ。てことは恐竜もいけるってことですよね、などと喉元まで出かかりましたがやめておきました(※鳥類は恐竜の進化形とされています)。

 しかし、何を言われても答え合わせのしようがないという意味では、対象が猫だろうがトカゲだろうがこちらにとっては同じこと。なんというか、掘れば掘るほど目の前のこの先生こそが一番の珍獣ではないかと思えてきます。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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