あなたもきっと詠みたくなる! 短歌の作り方
5・7・5・7・7のリズムで、季語を必要としない短詩である“短歌”。つくった短歌がTwitterを中心に大きな注目を浴びた編集者・歌人のまほぴさんに短歌をつくるための方法や心構えをお聞きしました。
31音という限られたなかで言葉を紡ぎ、ひとつの作品として詠む“短歌”。みなさんも教科書などで作品を実際に読んだことがあるのではないでしょうか。
今回は編集者・歌人であるまほぴさんに、短歌の作り方や魅力、良い作品との出会いをお聞きしました。
はじめまして。編集者・歌人のまほぴです。
“歌人”と聞いても、あまりピンとこないかもしれませんが、その名の通り“短歌をつくる人”のことを指します。そして短歌とは、5・7・5・7・7のリズムで、季語を必要としない短詩のことです。
以前、今から2年以上前につくった短歌が、Twitterで話題になったことがありました。
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし#tanka
— まほぴ⛵第二歌集発売 (@mhpokmt) May 7, 2018
この短歌を毎月歌壇に投稿したときの、谷川電話さん(@tanikawadenwa )の評がうれしかったので何度でもみてしまう。 pic.twitter.com/rRQoeZjhdH
この短歌は、毎月寄せられた短歌を選者の方が選歌・選評のうえ、ネットプリントとして発行する「毎月歌壇」で取り上げられました。そしてさまざまな偶然が重なった結果、この短歌はTwitter上でもっともリツイートされた1首となったそうです。まさか2年以上前につくった短歌が、こんな形で注目を集めることになるなんて……、と非常に驚きました。
そしてこの出来事をきっかけに、「短歌をやってみたい」、「つくってみたい」という方から、「どうすれば短歌がつくれるようになるのか?」と相談を持ちかけられるようになりました。
たしかに、「短歌をつくろう!」と思っても、一体何から始めたらいいのか分からないのではないでしょうか。今回は自分の経験から、短歌をつくり始めるためのちょっとした心構えをお伝えしたいと思います。
短歌との出会いは、国語の教科書だった
短歌と一番最初に出会ったのは、国語の教科書でした。
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ(俵万智)
皆さんもご存知であろう、俵万智さんの代表的な短歌です。
「寒い」というマイナス同士を掛け合わせると、「あたたかい」というプラスになる。そんな不思議な化学反応を見ているようで、でも確かに経験したことがあるな、と感動したことを覚えています。
そのときはまだ、自分が短歌をつくるようになるとは思っていませんでした。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/489194840X
次に短歌に出会ったのは、大学生のころ。偶然立ち寄った本屋さんで、何気なく1冊の本を手に取りました。それは笹井宏之さんの『えーえんとくちから』という歌集でした。
拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません(笹井宏之)
はなびらと点字をなぞるああこれは桜の可能性が大きい(笹井宏之)
5・7・5・7・7の定型を守りながら、こんなに静謐な世界がつくれるのか、と衝撃を受けました。その日はすぐに笹井さんの歌集を買って帰り、夢中になって読みました。
それから現代短歌に興味を持つようになった私は、雑誌「ダ・ヴィンチ」の『短歌ください』というコーナーを読み始めます。このコーナーは毎月歌人である穂村弘さんがテーマを出題し、読者がテーマに合った短歌を投稿する企画です。さまざまな年齢の人が、それぞれの視点で作品を投稿しています。
他にも短歌投稿サイト「うたらば」にも頻繁にアクセスするようになり、私自身も少しずつ短歌をつくるようになったのです。
31音の中で切り取る、情景や心情
短歌の魅力は、5・7・5・7・7というたった31音の短い言葉の中に、さまざまな情景や心情が詰まっているところだと思います。
『マッチ売りの少女』で、女の子がマッチを1本ずつ灯して夢のように幸せな幻を見る場面がありますが、私は短歌にもそれに近いものを感じることがあります。なぜなら、1首の短歌が映画のように思えることも、短歌が切り取った一瞬の中に、永遠や一生を感じることもあるためです。
あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ(小野茂樹)
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生(栗木京子)
この2首は、生活のふとした瞬間に思い出してしまう歌です。一瞬を切り取っていながらも、人生そのものに響いていくような、そんな今を生きる切なさにあふれている短歌だと思いませんか?
短歌は31音という限定された短い言葉で表現されるからこそ、私たちの心に強く刻まれるのかもしれませんね。
好きな歌に出会うためのポイント
さて、ここまできたらあなたも短歌をつくってみたくなったはず。短歌をつくるコツとして大事なのは、“読むこと”と、“気づくこと”にあります。
1つ目の“読むこと”ですが、まずは自分が好きな短歌を知るところから始めましょう。好きな短歌に出会うことは、短歌をつくる何よりのきっかけになります。
現在はとても多くの人が短歌に親しんでいることもあり、同時にいろんな作風の短歌が日々生み出されています。気になる短歌があれば、どんどん触れてみましょう。
時には、よく分からなかったり、難しく感じるものもあるかもしれません。そんなときは無理に読み解いたり、理解しようと頭を抱える必要はありません。むしろ、ピンと来ないものは素通りしてしまってもいいと思います。大事なのは、自分の心に響くもの、好きなものと出会うことにあります。
そしてたくさんの短歌を読むうちに「自分はこういう作風が好きなんだ」、「こういうテーマを詠んでいる歌にぐっとくるな」と、少しずつ好みの傾向が分かってきます。好きな短歌が見つかると、それがのちのち新たに短歌をつくり始める上での指標にもなります。自分の好みがはっきりしていると、つくる上でも具体的なイメージが湧いてきますよ。
オススメは『桜前線開架宣言』というアンソロジー。現代歌人40名の作品が掲載されているので、入門編としても最適です。また、先ほどご紹介した短歌投稿サイト「うたらば」にも、さまざまな歌人の短歌が集まっています。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4865281339
本やインターネットなどで好きな歌人に出会えたら、今度はその人が発表している短歌を探したり、歌集を購入すると、もっと好きな短歌に出会える可能性が高まります。
まずは好きな短歌に出会うこと。出会ったら、なぜ好きなのか、どこに惹かれるのか分析してみること。好きな理由がわかると、それ自体が短歌をつくるうえでのとっかかりになります。ぜひ、あなたの好きな短歌を見つけてみてください。
続いて、2つ目の“気づくこと”について。
短歌で何を表現するかは自由です。どんなことを短歌にしてもいいのですが、以下のような「心のざわつき」を見つけてみましょう。
・普段よく目にしているけれど、言葉にしていないこと ・意識していないが、心のどこかで引っかかっている違和感 |
日常の中で見落としがちな、心がざわっとする瞬間を発見できると、その現象自体を短歌にすることができます。
以前、私はタクシーに乗っているときの違和感を短歌にしたことがあります。
飲み会のあと、終電を逃してタクシーに4人で乗り込んだときのことです。乗車した4人はタクシーの中で会話を続けて盛り上がっていましたが、運転手さんは当然ながら黙って運転をしていました。
タクシーの中は狭く、乗客と運転手はとても近い距離にいるものの、5人のうち1人だけすっと透明になり、まるで存在しない人かのよう。そのときの心のざわつきを、次のような短歌にしました。
にぎやかな四人が乗車して限りなく透明になる運転手
みんなが心のどこかでは思っているはずだけれど口にしないことや、気づいているけれどあえてわざわざ会話しないようなことに気づいたら、5・7・5・7・7の型に落とし込んでみましょう。ピッタリ31音でうまく表現できると、パズルが完成するような気持ちよさがあるはずです。
短歌をつくることで、見えてくる世界
短歌をつくるためのテクニックは、この他にもたくさんありますが、まずは“読むこと”、“気づくこと”を意識してみると、つくりたい短歌のイメージが見えてくるかもしれません。
短歌にしたい題材がみつかったら、あとは思い切って5・7・5・7・7に落とし込んでみるだけ……、と言ってもこれが難しいのですが(笑)。ああでもない、こうでもないと適切な表現を探す時間はなかなか楽しいものです。
単語を変えてみたり、切り取る視点を変えてみたりと何度も推敲を続けていくうち、やがてしっくりとくる表現が見つかる瞬間が来ます。ぜひ、そのピタリとハマる瞬間の達成感を、あなたにも味わってみてはいかがでしょうか。
<了>
<寄稿者プロフィール> 岡本真帆(おかもと・まほ) 1989年生まれ。広告制作会社でコピーライターを経験後、株式会社コルクに入社し編集者に。2015年頃から短歌をつくりはじめ、現在歌人としても活動中。 |
初出:P+D MAGAZINE(2019/01/15)