辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第1回「自分で決めた産休・育休」

辻堂ホームズ子育て事件簿
『十の輪をくぐる』で大注目!
一風変わった作家の育児エッセイ、
連載スタートです!!

 なぜ教育の専門家でも何でもない私が子育てエッセイの連載をすることになったかというと、『十の輪をくぐる』という小説を2020年11月に小学館から刊行したことがきっかけだ。この作品は1964年と2020年の東京オリンピックの時代を往復しながら話が進んでいくのだけれど、子育てが大きなテーマの一つになっている。

 デビュー間もない頃に、とある編集者から、「女性作家は、出産・育児を経験するとそれがテーマの作品を書きがち」という話を聞いた。真偽は分からないけれど、まあ確かにそうかもしれない。ちょっぴりひねくれている私は、「ご自身の経験」と言われるものがまだないうちに、子育てというテーマと真剣に向き合う小説を書いてみたいと思った。そうして2018年10月に連載を始めたのが、『十の輪をくぐる』だ。

 と言いつつ、1年半の連載中に妊娠し、つわりを乗り越え、出産し、自分自身の子育てが始まった。陣痛開始の3時間前まで、そして出産後は新生児を片手に抱えながら、そんなに切羽詰まって何の仕事をしていたかというと、『十の輪をくぐる』を単行本として刊行するための改稿作業だったので、まさにその作品がこの子育てエッセイの仕事に繋がったと思うと感慨深い。

 このエッセイ、というか日記は、子育てについての私なりの答え合わせになるのだろう。前述の新生児を抱えた改稿中にもすでに、『落ち着きのない息子が二十分でも三十分でもテレビに見入ってくれると』を『五分でも十分でも』に書き換えるなど、具体的な発見があった。そうした気づきが、これからはもっと出てくるのかもしれない。物語と現実の差を思い知る日が来るのかもしれない。もちろん物語の中の「息子」と私の「娘」はまったくの別人で、性格も環境も違うわけだから、何が正解とは一概に言えないけれど、それでもやっぱり楽しみだ。

 ここまで読んでいただいて、すでに違和感を覚えている方も多いかもしれないけれど、私の「産休」はとても短かった。

 作家はフリーランスだ。法律上、個人事業主という分類になるから、産休も育休も存在しない。健康保険組合から出産育児一時金は出るけれど、分娩費用で綺麗さっぱり消えてしまう。つまり、小説を書かないと、まったくの無収入になる。

 問題が金銭面だけなら、夫が会社からもらってくる給料に頼るという手もあった。というより、自分の身体のことを考えればそれが一番だったのだと思う。でも私はデビュー前から、それこそ中学生の頃からずっと、趣味で小説を書き続けてきた。出産したからといって、その習慣を突然やめることはできないだろうとは、うすうす予想がついていた。

 だから結局のところ、「産休」をほとんど取らないという選択を、私は前向きな気持ちでしたことになる。


*辻堂ゆめの本*
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
十の輪をくぐる
『十の輪をくぐる』

 刊行記念特別対談
荻原 浩 × 辻堂ゆめ
▼好評掲載中▼
 
『十の輪をくぐる』刊行記念対談 辻堂ゆめ × 荻原 浩

「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ

辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。

【本屋大賞2021ノミネート】小説家・山本文緒のおすすめ作品
「推してけ! 推してけ!」特別編 ◆『臨床の砦』(夏川草介・著)