辻堂ゆめ『ミステリ作家、母になる』

辻堂ゆめ『ミステリ作家、母になる』

ロールスロイスのオープンカー


 初のエッセイ集『ミステリ作家、母になる』のカバーラフが、担当編集さん経由で届いた。「この子たち、だーれだ?」とイラストを見せると、5歳長女も3歳息子も首を傾げた。まったくピンとこない様子なので、答えを教えることに。

「これがママで、ママがお話を書いた紙の上でインクをこぼしてるのが●●ちゃん(長女)、足跡をつけて走り回ってるのが●●くん(息子)、猫と遊んでるのが●●ちゃん(次女)だよ」

「えー!? ほんとだ! なんで!?」

 大ウケだった。自身がイラスト化されるという事象が、想像の範疇を超えていたのだろう。かく言う私だって、小説家として10年やってきたけれど、イラスト化されて自著にでーんと載るのは初めてだ。「自分が絵になるなんて、不思議な気分だねぇ」と子どもたちと盛り上がっていると、騒ぎを聞きつけた夫が近づいてきてイラストを覗き込む。

「あ! 大変なことに気がついた!」

「何、変なところでもある?」

「俺がいない!! 描き足してもらわなきゃ!!」

 私の子育てエッセイなんだから仕方ないでしょ、とあっさり却下。

『ミステリ作家、母になる』は、私が4年以上にわたって綴ってきた子育て日記を、一部抜粋して書籍化したものである。

 その連載中に、第2子と第3子が生まれ、2度引っ越しをし、入園申し込みを4回し、小説の新刊を8冊出した。まあバタバタしていたな、と思う。来年には長女が小学生だ。末っ子はまだ1歳。少なくともあと10年くらいは、このままバタバタし続けるのだろう。

 最近長女と息子は、車のエンブレムを読むのにハマっている。保育園の帰りに道草せずちゃんと歩いてほしくて、「あれはトヨタだね~。あそこに停まってる車は何かな?」などとこちらから促したのが始まりだったのだけれど、今では2人ともすっかり車博士になっていて、「あ! ベンツだ! フォルクスワーゲンだ! アウディだ~!!」などとお気に入りの車を見つけては叫びまくるものだから恥ずかしくて仕方ない。我が家もそろそろ大きめのファミリーカーに買い替えようかという話をしていたら、「フェラーリがいい!」と息子に言われた。無理です。いろんな意味で。

 今日も辻堂家のリビングでは、レゴブロックで作った「ロールスロイスのオープンカー」が床を走り回っている。3歳で高級車好きだなんて、まったく親の顔を見てみたいものだ。

 子育てって愉快だね、奥が深いね、飽きないね──ということを書いたエッセイ集です。

  


辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。2015年、第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。21年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、22年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『山ぎは少し明かりて』など多数。

【好評発売中】

ミステリ作家、母になる

『ミステリ作家、母になる』
著/辻堂ゆめ

辛酸なめ子「お金入門」 16.はじめてのヨーロッパ旅行で感じた為替レートの壁
田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」第36回