辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第27回「夫婦は仕事のパートナー その2」

辻堂ホームズ子育て事件簿
共働き家庭の家事分担。
試行錯誤した結果、
それぞれの個性をフル活用!?

 あるとき、上記のような話を私の母にしていると、こんなことを言われた。「今の夫婦って大変。私のときは、夫が会社、妻が家と決まっていて、誰も彼もが思考停止でそうしてたから、仕事や家事の分担について夫婦で話し合う必要すらなかった」。

 私はなんとなく、令和の世は男女平等が進んでいて男の人に家事も半分やってもらえるから楽だな~、なんて思っていたのだけれど、上の世代からはそう見えたりもするのかとはっとさせられた。同世代の共働きの友人からも、「ゴミ出しは夫の担当なのに曜日をすぐ忘れて困る」とか、そんな愚痴を聞くことがたびたびある。ちなみにこの友人には、「人には得手不得手ってものがあるから、リマインド係と実務係に分けるのがおすすめだよ!」とアドバイスしてみたのだけれど、「何それ仕事みたい」と笑ってあしらわれてしまった。

 仕事……のつもりでやらないと上手く回らないと思うのだが、他のご家庭ではどのようにタスク管理をしているのだろうか。なんとなく、でやれるものなのだろうか。だとしたらうちが厳密に分担しすぎなのか。そんなことを考える日々である。

 ──と、我が家では理想の家事分担を実現したつもりでいるのだけれど、このゴールデンウィークに夫が「これ、冷蔵庫に入れとくから、ご飯と目玉焼きだけ自分で用意して食べてね」などと言いながらキッチンでせっせと動き回っているのを見て、なんだか私は昭和のお父さんみたいな気分になってしまった。そういえば亡くなった祖母も、新婚だった頃の私と一緒に外食に出かけたときに、よく訊いてきたっけ。「今日、旦那さんはどこかへお出かけ? え、家にいるの⁉ ご飯は大丈夫なの⁉」と……。生前、祖母はそうやって、自分が家を空けるとき、常に祖父のご飯の心配をしていたのだろう。

 この連休中に我が家で起きたのは、まさにこれの男女逆パターンだ。「3日間ワンオペにさせてしまうから、君の好物でも作って恩を売っとかないと」と夫は冗談めいた口調で言っていて、確かに3日間もの育児ワンオペには見返りが必要だとも思うのだけれど、やっぱり祖母の顔が頭にちらつく。

 子どもが生まれてから、私は本当に料理をしていない。ごくたまにホットケーキを焼くのと、もらい物のリンゴを剝くのと、気が向いたらホームベーカリーでパンを焼くくらいだ。あとは夫がコロナで倒れたときに一度だけ、茹でたパスタに市販のソースをかけて隔離部屋に差し入れたことがあったっけ……。そのときは料理担当大臣の夫にいたく感動されたけれど、果たしてあれが料理と呼べるのか。ああ、理想的な家事分担の結果とはいえ、情けなくなってきた。

 夫が遠方に出かけた夜、そんなことをつらつら考えながら、子どもたちが寝た後にガパオライス用の目玉焼きを作っていると、眠りについたと思っていた娘と息子がなぜか電車ごっこのように連なって隣の寝室から出てきた。

 あ、やばい。今、火を使ってるのに。どうしよう。

 料理と育児を両立した経験があまりになさすぎて、しばしキッチンに立ち尽くしていると、ピンク色のパジャマ姿の娘がのんびりと声を上げた。

「ママ、りょうりしてる!」

 特に驚いたふうでもなかった。普段、冷凍の作り置きを電子レンジで温めるためにしょっちゅうキッチンには立っているせいか、私がコンロでフライパンを使っているという状況を、娘は違和感なく受け入れているようだった。

 その事実に、内心ほっとした。大嫌いな料理をせずとも美味しい晩ご飯を食べさせてもらえる人生は控えめに言って最高だけれど、「料理ができない大人になってもいいんだ」と子どもたちに思わせて、自ら悪い手本となるのは避けたい。そのためにはやっぱり、たまにはこうして目玉焼きや、せめてカレーくらい作らないとね……。

 とは思うけれど、うーん、面倒臭いことには変わりない。今は乳幼児2人にとても手がかかるから、もう少し君たちが大きくなって、育児そのものの手間が少なくなったら頑張ろうかしらね! ──と、私は今日も自分を甘やかしている。

(つづく)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『答えは市役所3階に』。

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