辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第26回「IT時代の親、慣らし保育に挑む」

辻堂ホームズ子育て事件簿
ツイッターのトレンド欄に
「慣らし保育」「ギャン泣き」
が並んだ4月。我が家はというと。

 2023年4月×日

「子育ては団体戦」という言葉を、聞いたことがあるようなないような気がする。

 今どき、ママ1人じゃなく、パパも一緒に夫婦2人で。祖父母など親戚の協力も得て。ママ友・パパ友たちと助け合って。地域住民の方々や行政のサービスにも支えられて。私が耳にしたときは、そんな意味合いで語られていただろうか。だけどこの春、これらよりはるかに壮大なスケールで、熱烈な「団体戦」の空気を味わうこととなった。

 4月3日、月曜日。私たち夫婦は落ち着かない気持ちで、新年度幕開けの朝を迎えていた。

 子どもたち2人の慣らし保育が、同日にスタートするのである。3歳娘が幼稚園に入園するのを機に、1歳息子も正式に近所の保育園に入れることにしたのだ(これまでは週に2~3日程度、電話やアプリでの激戦を勝ち抜いて一時保育の予約を確保し、あちこちの園にその都度子どもたちを預けていたのだけれど、その生活についに限界がきたともいえる)。

 幼稚園といっても、娘が入る園は認定こども園という名称で、午前9時に登園して午後2時に帰宅する「幼稚園枠」で入園する子どもと、朝や夕方に毎日預かり保育を利用する「保育園枠」で入園する子どもが同じ施設に通う。うちの子は「保育園枠」なので、4月10日の入園式より前に、まずは預かり保育の慣らし保育が始まるのである(ややこしいけど非常にありがたい、この新制度)。

 慣らし保育初日は、預けられる時間が恐ろしいほど短い。送ってから迎えにいくまでが、たったの2時間だ。しかも娘の幼稚園と息子の保育園とで、9時~11時と時間が丸かぶり。保育園の先生のご厚意で、娘をピックアップしてから15分ほど遅れて息子を迎えにいく形でOKということになったけれど、園同士が離れているため、ハードスケジュールには変わりない。

 とりあえず朝、学生の頃の友人たちと繋がっているツイッターの非公開アカウントに、『さて本日より慣らし保育!』と書き込んで気合いを入れた。タイムラインを追ってみると、夫婦そろって育休を取得して0歳の女の子を育てている大学の後輩は、娘ちゃんを預けている間に2人でカフェのモーニングに行くらしい。あー、カフェ、いいな。せっかくの慣らし保育だし私も行くか。でもちょうど昨夜、文芸誌掲載予定の短編のゲラが届いていたな。奇しくも、慣らし保育中に済ませるのにちょうどいいくらいのタスク量……。まるでタイミングを見計らったかのような……。やるか……。

 というわけで、驚くほど密度の濃い2時間半が始まった。8時45分、息子を抱っこ紐に入れた夫を玄関で見送り、娘を車に乗せて出発! 9時過ぎ、娘を幼稚園に送り届ける! 9時半、帰宅! 短編ゲラ開始! はっと気がつくと10時半過ぎ、慌てて最後の赤字を入れてPDFファイルを送信! 車に飛び乗って幼稚園へ! 11時、娘お迎え! 11時15分、娘の手を引いて徒歩で息子をお迎え!(※多すぎるエクスクラメーションマークは、そのまま私の心情を表しています)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『答えは市役所3階に』。

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