椹野道流の英国つれづれ 第30回
そう、親切なんですよ。
だけど、私が朝に学校に行ってから、「夜勤明け」のくつろぎ時間を過ごしているらしく、きちんと整えておいたはずの枕の真ん中に凹みが出来ていたり、毛布がクチャクチャになっていたりするんですよ……なんて話をすると、みんな、ますます面白そう。
「最初は怖かったり気持ち悪かったりしたんだけど、だんだん平気になっちゃって。この国、仲良しでなくても家を分け合って住んだりするんでしょ。フラットシェア、だっけ。私も、幽霊とフラットシェアしてると思えばいいのかな、なんて思ってる」
私がそう言うと、ジーンは何度か勿体ぶって頷き、芝居がかった動作で両腕を軽く広げて、「イングランドへようこそ」と言いました。
幽霊との共生。
そんな、日本にいたときは考えてもみなかった謎の風潮に、私はいつの間にか馴染んでしまっていたようです。
それからも、窓すらまともに閉まらない、天井はたわんだままの古い部屋で、私と幽霊の不思議な「フラットシェア」生活は続きました。
私が、窓からの隙間風に耐えられなくなった夏の終わりまで……。
兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。