椹野道流『祖母姫、ロンドンへ行く!』

椹野道流『祖母姫、ロンドンへ行く!』

『祖母姫、ロンドンへ行く!』発行によせて


 ついに。

 ついに、「#祖母ロン」こと『祖母姫、ロンドンへ行く!』が発売されました!

 若き日の私が、祖母とふたりでロンドンを旅したときの、珍道中の記録です。

 そもそものきっかけは、「ステキブンゲイ」さんのウェブサイトで、エッセイの連載コーナーをいただいたこと。

 ずっとエッセイを書きたいと思っていたので、これは本当に、嬉しくありがたいことでした。

 ところが毎週更新するうち、小説のほうの執筆スケジュールが厳しくなってしまい。

 ついに「今週はエッセイをお休みさせていただこう」と思ったそのとき、ふと雨粒のように落ちてきたのが、祖母とのロンドン旅行の記憶でした。

 あまりにもつらかった、疲弊したという印象が強くて、記憶の深海に沈めて忘れていた思い出が、何故そのタイミングで浮かび上がってきたのか。未だによくわかりません。

 しかも、何故それを、原稿の〆切が迫ってしっちゃかめっちゃかの中、わざわざエッセイに書こうと思ったのかも。

 もしかしたら、「せっかく思い出したから、メモ代わりにちょいと書いとこう」くらいの気持ちだったのかもしれません。

 でも、書き始めたら次から次へと当時の思い出が蘇ってきて、もっと書きたい、書き残しておかなくては……と強く感じたのです。

 何十年も前のことが、こんなに鮮やかに思い出せるものなのかと驚きましたし、それよりも、自分がいかに彼の地で出会った人たちから、そして他ならぬ祖母から、かけがえのない財産をもらっていたのかに改めて気付き、自分の未熟さが恥ずかしくもなりました。

 思い出せた情報をさらに取捨選択し、できるだけ楽しく、面白く、でも若い日の私の心の動きは正直に綴るうち、連載はどんどん長くなり、次第にたくさんの方々が、読んでくださるようになりました。

 今のご自分が、まさに若き日の私だと仰る方。

 私の祖母の自由な振る舞いに、ご高齢のお身内を重ねて、苦笑いしながら楽しんでくださる方。

 遠き日のロンドンに、私と同じような懐かしさを抱いておられる方。あるいは、イギリスに憧れを持っておられる方。

 多くの温かな想いを寄せていただき、19回に及んだ連載は、とても幸せなものとなりました。

「この話を、一冊の本にしたいね」

 と、今、この本の企画編集を担当している鬼瓦氏と話し合ったのは、去年のこと。

 とはいえこのご時世、書籍化が決定し、発売にこぎつけるまでには、多くの大波小波がありました。

「本の形で読みたい」というお声の重なりが、響きが、この物語を、ネットの海から現実世界へ連れ出してくださいました。

 また、「祖母との旅の記録だから、是非、ご自身もまた『祖母』であるこの方に表紙を」という私の我が儘を受け入れ、この上なく美味しそうなスコーンのちぎり絵を作成してくださった木村セツさんにも、たいへん感謝しております。

 ようやく発売がかなった「祖母姫、ロンドンへ行く!」、どうかお楽しみいただけますように。

 それから……祖母と旅をする前、イギリスにワケアリの単身留学したときの私のお話は、この「小説丸」で、「#英つれ」こと「椹野道流の英国つれづれ」として連載中です。是非、こちらもお試しいただけますれば!

 


椹野道流(ふしの・みちる)
兵庫県在住。1996年「人買奇談」で第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。同作に始まる「奇談」シリーズが人気となりロングシリーズに。また法医学者、監察医としての経験を生かし、「鬼籍通覧」シリーズなどのミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」「時をかける眼鏡」各シリーズ等著作多数。4匹の先輩猫と、最近保護したちびすけと暮らしている。

【好評発売中】

祖母姫、ロンドンへ行く!

『祖母姫、ロンドンへ行く!』
著/椹野道流

作家を作った言葉〔第16回〕年森 瑛
椹野道流の英国つれづれ 第10回