椹野道流の英国つれづれ 第4回

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◆イギリスで、3組めの祖父母に出会う話 ♯4

いやもう、ここはどこ?

住宅街を抜け、牧草地を抜け、また住宅街を抜け……。

変わり映えのしない景色を延々と眺めるうち、小1時間が経過したでしょうか。

私の不安は、ひとりでは抱えきれないほど大きくなってきました。

車内アナウンスは流れるものの、走行音が意外なまでに大きく、ろくに聞き取れないのです。

もしかしたら、行くべきおうちのあたりをもう過ぎてしまったかも。

このままでは、見知らぬ街で「終点だよ」と下ろされ、一生ブライトンに戻れないかも。

今なら「そこまでのことにはならんやろ~」ともうひとりの自分が鷹揚に突っ込みを入れられそうだし、見知らぬ街探索だって楽しめそうなものですが、とにかく当時の私は、全方位、不安だったのです。

ちょうど、時間調節か何かで、バスがとあるパブの前で少し長く停車することになったので、私は車内を見回してみました。

誰か、道を訊ねられそうな人はいないかな。

さっきの若い女性は途中で降りてしまい、今、車内にいるのは、いちばん後の席で賑やかにお喋りをしている、3人の高齢女性だけ。

楽しそうな雰囲気を壊すのは、気が引けます。

これは、運転手さんに訊ねるのが、いちばん確実でしょう。

私は席を立ち、運転席に近づきました。

腕組みして俯いている運転手さんは、サングラスのせいで、起きているのか寝ているのかすらわかりません。

「あの、すみません」

それでもおずおずと私が声をかけると、運転手さんは私のほうを向き、腕組みを解いてくれました。無言のままですが、話を聞いてくれる余地はありそうです。

「あの、この住所のおうちに行きたいんです。近くまで来たら、教えてもらえませんか?」

すると運転手さんはサングラスを外し、私が見せたメモをしげしげと見て、首を振りました。

「まあ、そのへんには行くけどさ。この路線だと、最寄りのバス停からだいぶ遠いよ。●●番に乗りゃよかったのに」

あああー! やっぱり間違えとったー!

私はたちまち青くなりました。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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