椹野道流の英国つれづれ 第4回

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彼女たちに肩を抱かれ、背中を撫でられ……ああ、これは。

東洋人あるあるなのですが、どうもいわゆる「西洋」に行くと、我々はどうも必要以上に幼く見えてしまうようなのです。

特に、お化粧もしていないストレートヘアの私は、まさかの小学生くらいに見えていたようで……。

「この子が誘拐されでもしたら、あんたのせいよ! それでもいいの!」

老婦人に詰め寄られては、お年寄りには基本的に優しいイギリス男としては、それ以上、口論を続けられなかったのでしょう。

運転手さんは両手で「降参」のポーズをして、「どうしろってんだよ」と情けない声を出しました。

老婦人は、ツケツケと厳しい声で一言。

「この時間帯、バスに乗るのはあたしたちくらいのもんよ。構いません、この子が下りるお家の前まで行きなさい」

いやいや、構うでしょう、それ。

路線バスが路線を簡単に変更できるはずが……。

「あいよ、しょうがねえなあ。ナイショにしてくれよ、婆さん」

えええー!?

いいの? マジで? いや絶対に違反行為だよね、それ。

ナイショにしてくれって言ったもんね?

私のせいで、そんな危ない橋を渡らせるわけには……。

「今回だけだぜ。次からは絶対、●●番に乗れよな」

狼狽する私に、運転手さんは憮然とした顔でぶっきらぼうに言い捨て、その後、電光石火のウインクをくれました。

えっと思う間もなく、彼はサングラスを掛け直し、「そろそろ出るから、みんな座ってくれ」とよそよそしい一言。

「さあ、いらっしゃい。もう安心よ。目的地まで、私たちとお話ししましょう」
運転手さんにごめんなさいとありがとうを言う暇もなく、私は3人の老婦人に囲まれ、最後部の座席に連れていかれました。

どこから来たの? まあ、日本! 遠いところから。

どこへ行くの? メモを見せて。あら、リーブさんち。

お付き合いはないけど、お名前は聞いたことがあるわ。素敵なおうちにお住まいなのよ。

彼女たちは、弾丸のような勢いであれこれと話しかけてきます。

騒音の中、しかも早口なのに不思議なくらい聞き取りやすいのは、抑揚がハッキリしているからでしょうか。

嬉しいし、安心したけれど、ドギマギはまったくおさまる様子もなく。

私は相変わらずよく揺れるバスの中で、曖昧に頷いたり、短い受け答えをしたりするのが精いっぱいでした……。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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