特別インタビュー 武田綾乃 「響け!ユーフォニアム」を語る

特別インタビュー 武田綾乃 「響け!ユーフォニアム」を語る


上を目指して、前へ向かう高校生を描きたかった

小説丸
北宇治高校吹奏楽部の目標は、コンクールでの全国大会金賞。コンクールに出られるのは、オーディションで選ばれた55名。才能がジャッジされる厳しい世界で、部員たちが嫉妬や葛藤にどう向き合っていくかも丁寧に描かれています。

武田
そうですね。「響け!ユーフォニアム」シリーズでは大前提のルールとして、悪意を持って集団の足を引っ張ろうとするキャラは出さない、というのがあるんです。大人数が集まる部活なので、考えが違う子同士が揉めたり衝突したりすることは当然ある。
でも、それぞれが自分の意見がベストと信じて行動している。

小説丸
誰かを貶めようとする人はいない、ということですね。

武田
はい。何がベストかが食い違うことはOK。でも嫌がらせはなし。

小説丸
卑怯な行動はなし。

武田
もちろんそういう小説にも別の面白さがあると思うのですが、この世界観でそれをするとブラックな展開になるし、吹奏楽の本質からどんどん逸れてしまう。
この作品では、前に前に向かっていく子たちの人間関係を描きたかったので。

小説丸
上を見ながらも前へ進もうとする明るい部員たちに、元気をもらえます。

武田
エンタメ寄りの明るい物語にしよう、ということは最初から決めていました。今、吹奏楽をやっている子が読んでいて気持ちいい小説にしたかった。

武田綾乃さん

小説丸
やっていなくても、吹奏楽をやりたくなると思います。私ももう一度、高校時代をやり直せるなら吹奏楽部に入りたいと思ったくらいです。

武田
ありがとうございます!(笑)

小説丸
久美子が3年生となった『決意の最終楽章』に登場する黒江真由が、特に印象的でした。強豪校からの転入生で、久美子と同じくユーフォニアム担当。

武田
シリーズを始めたばかりの頃には、こういうキャラは書ききる自信がないので出せないな、と正直思っていたんです。

小説丸
そうだったんですね。

武田
でも、何のために吹奏楽をやるのか、コンクールで勝つことがすべてなのか、というテーマを掘り下げようと思ったときに、黒江真由というキャラクターはどうしても必要になってきて。

小説丸
全国大会で金賞を目指すのか、和気あいあい楽しく演奏するのか。黒江真由の存在が、久美子の心に不安の影を落としていきます。

武田
新シリーズとして独立させた『立華高校マーチングバンドへようこそ!』を書く前に、マーチング強豪校である京都橘高校の吹奏楽部を取材させてもらったのですが、京都橘の場合はショーとしていかに楽しく見せるか、ということをすごく意識して部活動に取り組んでいるんですね。

小説丸
なるほど。エンターテイメント性に重きを置く吹奏楽部もあるんですね。

武田
私個人としては、吹奏楽をやっているみんながみんな、全国大会を目指さなくてもいいと思っています。
でも、久美子たち北宇治はそれを目指すと決めたし、そのために努力を重ねていくことを選んだ。全員が全員、苦しい思いをしても努力して目標を追いかけていく。

小説丸
一度決めたらやり通す。大切だけれども、実際はなかなか難しいことですよね。

武田
狭い空間の中でそれをやると、噛み合わないことや、自分の居場所が脅かされることだって当然出てきます。「最終楽章」の前編ではそういうことを描きたかったから、「居場所と拠り所」というテーマを掘り下げたつもりです。

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