武田綾乃『なんやかんや日記 京都と猫と本のこと』

武田綾乃『なんやかんや日記 京都と猫と本のこと』

なんやかんやでエッセイが本になりまして


 この小説丸で二年半ほど連載していたエッセイが、ついに本になった。今までもエッセイの仕事は受けてきたが、こうしてまとまって本になるのは初めてだ。タイトルは『なんやかんや日記 京都と猫と本のこと』。

 正直に言うと、エッセイというのはちょっと照れる! だって小説と違って自分のことを書いているから。昔から自分のことを喋るのはあまり得意ではなかった。文章は推敲できるから助かるが、口頭で話すとなると話している話題があっちこっちに飛んでしまう。自分のエピソードを人に話す時は、オチまで全然いかない落語家みたいになるので毎回反省していた。そういう意味では、文章の方が自分について誰かに伝えるのは向いているのかもしれない。

 

 さて、小説丸の連載を終えてから今に至るまで結構な時間があったが、その間でエッセイのネタになるようなことはあっただろうかと考えてみた。そこで思い出したのは、つい先日夫と行った箱根旅行のことだ。

 実を言うと、箱根には今まで一度しか行ったことがない。以前に連載でも書いた、ルームシェアをしていた友人のNちゃんとの旅行だ。その時はバスの乗り放題乗車券を買って美術館巡りをした。星の王子さまミュージアムが特に印象に残っていたのだが、残念なことに今年の三月に閉園してしまったらしい。このミュージアムに行った後にサン゠テグジュペリの『人間の大地』を読むと印象が変わって凄く面白かったので、閉園したのは本当に残念だ。

 今回の旅行では、美術館巡りではなく温泉でまったりしようという話になったので、ちょっと奮発していい旅館に泊まることにした。箱根湯本にある非常に歴史のある旅館で、部屋数が少なくてのんびりできる。

 久しぶりの箱根で私はワクワクしていたのだが、一つだけ大きな問題があった。この旅行の日の一週間前、なんと『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(通称 ティアキン)が発売されたのだ!

『ゼルダの伝説』は長年ファンから愛されているゲームシリーズで、初代の『ゼルダの伝説』は1986年に発売された。緑色の服を着た主人公の勇者の名はリンクという。このゲームを初めてプレイした人は大抵、「君がゼルダちゃうんかい!」とビックリする。じゃあゼルダって誰なの? というと、ハイラル王国の王女のことを指す。

 2017年に switch で『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(通称 ブレワイ)が発売された時、世界中に激震が走った。このブレワイ、歴史に残るとんでもない名作ゲームなのである。『ゼルダの伝説』シリーズで初めてのオープンワールドゲームで、ありとあらゆることが出来る。高い位置から空を飛んで移動し、山をよじ登って行きたいところにいける。山から岩を落として敵を倒すことも、大きな葉っぱで風を起こして敵を海へ落として倒すことも出来る。柔らかな質感のグラフィックや作り込んだ世界観なども最高で、気付けばめちゃくちゃやり込んでいた。

 そしてその続編となるティアキンがようやく発売される! 絶対にやりたい! そういうわけで私は旅館に switch を持って行くことにした。テレビに繋いでやりたいので、フルセットである。一泊二日の旅行にもかかわらず、非常に大荷物となった。

 箱根旅行の当日は生憎の天気で、大雨だった。午後に箱根に到着した私は旅館に荷物を置き、箱根湯本の商店街をのんびりと歩いた。雨がかなり激しかったのでご当地のお菓子などを買ったら早々に撤退し、それからは部屋でゲームをして過ごした。いや~、旅館でするゲームって本当に良い! 家でも出来るじゃないかと思う人もいると思うが、非日常感があって楽しさがさらにプラスされた気がする。ティアキンには地下マップがあり、真っ暗な世界を自分の光源を頼りにうろつかなければならないのだが、ついつい深夜までやり込んでしまった。さらに乗り物を自分で作れるのも楽しくて、気付けば走れないバイクや蛇行しまくる車を量産している。ポンコツ乗り物工場の出来上がりだ。さらに私の操作するリンクはゼルダ姫を一向に探しに行かず、寄り道ばかりしているのでクリアはまだまだ先になりそうである。早くゲームを先に進めたいような、このゲームが終わってしまうことが悲しいから進めたくないような……。

 

 今回はゲームだったけれど、これが小説でも漫画でもなんでもいい。旅行先で日常の延長のような時間の使い方をするのはいつもより贅沢な感じがするからオススメだ。学生の頃は旅行というと「予定を詰めなきゃ勿体ない!」という気持ちになったし、ディズニーランドでは「アトラクションにいっぱい乗らなきゃ勿体ない!」とせかせか行動していたが、余裕を持ってのんびりと過ごすことの良さというものも大人になって気付いた。どっちにしても旅行って楽しいから良い。

 2023年は旅行欲が高まっているので色々な場所に行きたいところなのだけれど、私はこれからしばらく締め切り地獄なので残念ながら旅行するのは難しい。せめてゲームの中では旅人気分を味わおうと、今日もまた家でティアキンをプレイして遊んでいる。ゲームと本と執筆と……好きなものに囲まれた暮らしというのは派手さはないけれど良いものだ。

 

 ――と、こんな感じで、今月発売の『なんやかんや日記』の中でも私の好きなものについて、思うままに綴っている。もし気になった方は本を手にとって、楽しんで読んでもらえると嬉しい。

 


武田綾乃(たけだ・あやの)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計170万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『嘘つきなふたり』などがある。

【好評発売中】

なんやかんや日記 京都と猫と本のこと

『なんやかんや日記 京都と猫と本のこと
著/武田綾乃

乗代雄介〈風はどこから〉第4回
作家を作った言葉〔第18回〕水沢なお