特別インタビュー 武田綾乃 「響け!ユーフォニアム」を語る

特別インタビュー 武田綾乃 「響け!ユーフォニアム」を語る


恋愛より上に来る友情があってもいい

小説丸
最終巻にあたる「最終楽章」後編のテーマは、「努力は誰のためのものなのか」。

武田
組体操のように、これって一体誰のためにやっているの? というものってありますよね。

小説丸
「危険もあるけど、子どもが頑張っているんだから感動しますよね?」という押し付けに近い感覚が、組体操にはあるかもしれません。

武田
感動搾取じゃないけど、そんな風に努力を搾取する人が最近多いように感じていて。

小説丸
搾取される努力。

武田
北宇治高校のみんなが全国を目指す苦しさや努力、一体それは本当は誰の、何のためなのか?ということにきちんと向き合いたかった。

小説丸
努力することにのめり込むほど、目的地がどこだったのかわからなくなる。そんな大人も少なくありません。

武田
私は、すべての努力は自分のためでいい、と思っています。
一生懸命頑張っているのに、「いや、○○はもっと頑張っているから、あなたはまだ足りない」と言われたとしても、そんなの無視していいんですよ。自分の努力を、他人に捧げる必要はない。自分を守るために、誰かを攻撃しなくてもいい。自分に真摯でありさえすれば、努力は何かの形できちんと実るものだから。

武田綾乃さん

小説丸
誰のためでもなく、自分のために頑張る。

武田
もちろん人生においてはそう上手くいくことばかりじゃないですが、確かにあるその喜びを10・20代の若い読者に伝えたい、という気持ちがありました。

小説丸
はい。何かを頑張りたい、という気持ちにさせられました。ところで、武田さんの作品は女の子同士の強い絆、友情の形がしっかりと描かれているのも、印象的です。

武田
恋愛至上主義のような考え方が結構苦手なんです。少女漫画のような恋愛を主題としたジャンルだと、やっぱり友情よりも恋愛が上位に置かれてしまうことが多いじゃないですか?

小説丸
彼氏がいたら、女友達よりもそっちを優先するのが当たり前、のような空気は確かにありましたね。

武田
そうですよね。でも、恋愛より友情を大切に思うことだって当然あると私は思っていて。
男の子と付き合ったからといって、親友である女友達が二番手に下がらなくても別にいいですよね。

小説丸
そう言われてハッとする読者も多いかもしれません。

武田
恋愛というひとつのゴール、ベクトルだけで、すべてを完結しなくてもいいんじゃないかな、って。いろんな関係があって、それぞれにベストな形がある。拠り所にできる相手は多いほどいい気が私はします。

小説丸
拠り所にできる大切な相手は、たくさんいていい。そう考えれば、いろいろと楽になる気がします。

武田
そうなんです。

小説丸
それにしても、最終巻クライマックスの演奏シーンの美しさ、迫力は圧巻でした。巡る季節、別れの予感、それぞれの新しい道への期待……物語を完結させるにあたって、どんなことを意識していましたか。

武田
最初のほうは読者の裏をかいてやろうじゃないですけど、どんでん返しとかがあったほうがいいのかな? と迷っていた時期もあったんです。

小説丸
そんなことを。

武田
でも、長く書き続けていく上で、やっぱり「読んでいてよかった」と読者に喜んでほしい、という気持ちがだんだん大きくなってきて。

小説丸
「読んでいてよかった」と、私も思えました。

武田
よかったです! 読者が「こうなってよかった、嬉しい」と思える範疇で、さらにそこに何らかの加点をした作品にできれば一番いいのかな、と。

小説丸
後編で、前編で散りばめられた伏線がきれいに回収されます。ずっとシリーズを追いかけてきた人には、非常にカタルシスのあるラストに仕上がっていますよね。

武田
そう感じていただけたならすごく嬉しいです。
シリーズ1、2、3まではまず読んでもらうこと自体が大きな目標としてあったので、最初に大きな盛り上がりを演出したりといった工夫をしていたのですが、「最終楽章」に至っては、もうそういうことは全部無視(笑)。

小説丸
今さらそんな工夫はいらないですね(笑)。

武田
ここまで読んでくれた読者さんなら、きっと最後まで読んでくれるはずと信じて、最後に大盛り上がりすればいい、というテンションで書きました。

小説丸
それがあのクライマックスに。

武田
久美子も麗奈も滝先生も、終盤にはすべてのキャラクターが私の手から離れて、私のコントロールの及ばないところで行動した。書き終えた今は、そんな実感があります。
こういった幸福な形で完結させることができて、本当によかった。物語を手放した今、心からそう思っています。

小説丸
世界を存分に楽しませていただきました。ありがとうございました!

武田綾乃(たけだ・あやの)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』がある。

(文・構成/阿部花恵 撮影/浅野 剛)


京都アニメーションスタジオで発生した火災事件について、お亡くなりになられました方々に、謹んでご冥福をお祈り申し上げますと共に、ご遺族の皆様には心より、お悔やみ申し上げます。また、現在も治療中の方々の、1日も早い回復をお祈り申し上げます。


『響け!ユーフォニアム』
公式吹奏楽コンサート
~北宇治高校吹奏楽部 第4回定期演奏会~
【関東公演】開催決定!

▶︎くわしくはこちら

【シリーズ新刊、好評発売中】響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編

響け! ユーフォニアム
北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編

武田綾乃
(宝島社文庫)

【著者インタビュー】川村元気『百花』/大ヒット映画『君の名は。』のプロデューサーが贈る、認知症の母親とその息子の物語
須賀しのぶさん『荒城に白百合ありて』