【日本初上陸】台湾×日本のカルチャーが体感できる「誠品書店」に行ってみた

2019年9月に東京・日本橋にオープンした「誠品生活日本橋」は、台湾発のカルチャーが存分に体験できる複合型ショップです。誠品生活日本橋の中心となっている「誠品書店」について、その選書を中心にお話をお聞きしました。

2019年9月27日に東京・日本橋にオープンした、「誠品生活日本橋」。“アジアで最も優れた書店”にも選ばれた話題の店舗が満を持しての日本初上陸ということで、いま大きな注目を集めています。

台湾を拠点とする「誠品生活」は、書店や雑貨店、飲食店などが混ざりあった複合ショップ。誠品生活日本橋も、書籍ゾーンである「誠品書店」を中心に、文具、雑貨や生活用品のセレクトショップ、レストラン・カフェの全4ゾーンで構成されており、台湾発のカルチャーを存分に浴びることができるお店となっています。

今回はそんな「誠品書店」の気になる選書を中心に、誠品生活日本橋が生まれた背景やコンセプト、いま台湾で人気の書籍や作家などについて、実際に店舗にお邪魔してお話をお聞きしました!

日本橋店は、誠品生活の記念すべき50店舗目

IMG_4215
(取材に答えてくださった、誠品生活Japan営業部部長の謝月貴さん)

───誠品生活日本橋は昨年オープンしたばかりですよね。日本橋店は、誠品生活が初めて中華文化圏ではない場所で展開した店舗だと聞いています。

誠品生活 謝月貴さん(以下、謝):そうですね、誠品生活はいま台湾に44店舗、香港に3店舗、中国本土にも2店舗があり、日本橋店がちょうど50店舗目になります。

──誠品生活はすべての店舗に違ったコンセプトがあるとのことですが、日本橋店のコンセプトはどのようなものですか?

謝:日本橋という街は、江戸時代には五街道の起点として栄えた場所ですから、日本の文化や商業の発祥の地と言えると思います。そんな日本橋の豊かな歴史と文化性を表現したいと思い、「古今が交わり、新旧が溶け合う」というコンセプトで店舗デザインをしました。

──日本に出店する際には最初は日本橋で、というのはもともと決められていたんですか?

謝:そうですね。観光客の多い新宿や渋谷といった街よりも、いまお話したような文化的・歴史的な雰囲気を持っている街だということが、日本橋を選んだ理由として大きかったです。

それから、誠品生活日本橋が入っているのはコレド室町テラスという商業ビルなのですが、こちらは三井不動産さんが手がけられていて。何年か前に三井不動産の方から「日本橋再生計画」という日本橋の街づくりに関する提案を見せていただいたときに、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」というコンセプトが誠品生活に非常にマッチするな、と感じたのもこの場所を選んだ一因です。

──なるほど、そうだったのですね。最初にお店に入ってきたとき、松尾芭蕉の俳句が書かれた照明がとても印象的でした。

謝:ありがとうございます。この照明はフロアの四隅にあって、それぞれに松尾芭蕉の俳句と、台湾の書道家による「春夏秋冬」の文字が書かれているんです。

IMG_4237
(空間設計を手がけたのは、台湾を代表する建築家・姚仁喜氏)

──なるほど、フロアがそれぞれ「春」「夏」「秋」「冬」の四季になっているということなんですね。

謝:そうです。他にも、誠品生活の各店の入り口には“のれん”をかけたりと、内装の随所に日本をテーマにしたエレメントを散りばめています。

誠品書店で30年間続く取り組み「誠品選書」

IMG_4249

──誠品生活日本橋の中心は書籍ゾーン、誠品書店ですよね。誠品書店に入ると「誠品選書」という大きな棚が目を引きますが、こちらの本のセレクトはどのようにおこなっているんですか?

謝:「誠品選書」は、台湾の誠品書店で30年間続いている当店独自の選書企画なんです。日本橋店でもぜひ再現したいと思い、日本のスタッフ4名・台湾のスタッフ4名の計8名で月に1回選書のミーティングをおこなって、この棚に並べるラインナップを決めています。

──8名のスタッフさんはベテランの方ばかりなんですか?

謝:誠品書店のスタッフとしてベテランであるのはもちろん、日本文化をよく理解している人たちのチームです。ミーティングはテレビ会議の形でおこなっているのですが、日本の書籍の中で各スタッフが推したい本についてそれぞれプレゼンをして、全員でどれを置くべきかという投票をした上で本を選んでいます。

──選書の基準などは決まっているのでしょうか?

謝:はい、本の内容に独創性や革新性があり、そのジャンルや分野において代表的であること、著者がその分野において重要または特別な貢献をしていること、編集やデザインなどが細部までよく作られていること……などを原則としています。創作と出版に対して誠意のある本であればジャンルは問わない、というのもルールです。

IMG_4255
(棚には「日本選書」「台湾選書」のコーナーがそれぞれあり、台湾の書籍を扱う「台湾選書」は現地の誠品書店のセレクトを再現しているそう)

──なるほど、では、各ジャンルごとに必ず1冊を選ぶというような形ではないんですね。

謝:そうですね、誠品書店の軸でもある文学・人文系のジャンルを中心に、毎回さまざまな書籍が選ばれます。たとえば台湾の店舗で過去におこなった誠品選書では、ある料理人の方による料理本が単なるレシピ集ではなく、その人の人生観や哲学を表現した素晴らしい本だということで選ばれたこともありました。選書チームがそのように積極的な議論をおこなって、最終的に1人1冊ずつ、計8冊の本を選んでいます。

世界各国の名作文学を並べた「文学の廊下」

IMG_4268

──こちらの誠品書店の目玉はなんと言っても「文学の廊下」ですよね。このコーナーでは約30メートル続く書架に国内外の名作文学を並べているとのことですが。

謝:そうですね。こちらは世界の文学を取り扱うというコンセプトなので、日本・台湾のみに限らず、アジア・英米文学といった棚を設け、世界各国の名作と呼ばれる文学作品を選んでいます。名作文学、と聞くとどうしても純文学のイメージが強いかもしれませんが、たとえば推理小説なども数多くセレクトしているんですよ。

IMG_4272
(「文学の廊下」の本は地域と書かれた時代によって分類されている。純文学に限らず、推理小説やエンタメ小説なども豊富)

──なるほど、たしかにさまざまな地域とジャンルの本が並んでいますね。これだけずらりと書架が続いていると圧巻です……。

謝:書架の裏側には休憩スペースもあるので、ゆっくり座りながら本を選んでいただけます。現代の人たちはどうしてもWeb上にある短い文章ばかりを読みがちだと思うのですが、名作と呼ばれる作品にもぜひ手を伸ばしてみていただけたら、と思っています。

IMG_4264
(「文学の廊下」の端に置かれたこの椅子は創業者の家の書斎に実際に置かれている椅子のレプリカで、誠品書店の全店舗にあるのだそう)

誠品書店でいま売れている本・おすすめの本

IMG_4279

──実際にこちらの誠品書店でいま人気がある本や、おすすめの本も何冊かご紹介いただけますか。

謝:13歳の環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリさんを追った『グレタ たったひとりのストライキ』(マレーナ・エルンマン、ベアタ・エルンマン、グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ)や、伝説的なミニコミ誌の編集を担っていた人物が熱気を帯びていた90年代の音楽シーンについて語った『ミニコミ「英国音楽」とあのころの話』(小出亜佐子)、文筆家・武田百合子の代表作である『富士日記』の魅力を紐解く『富士日記を読む』(中央公論新社)などをセレクトしています(※2019年12月時点の「誠品選書」より)。

IMG_4253
(上から順番に『グレタ たったひとりのストライキ』、『ミニコミ「英国音楽」とあのころの話』、『富士日記を読む』)

──たしかにジャンルに囚われないセレクトですね。オープンから数ヶ月が経ちますが、こちらの誠品書店でいちばん売れ筋の書籍はどんな本になるんでしょうか?

謝:当店ならではということもあってか、誠品生活の創設者・呉清友を追った『誠品時光: 誠品と創業者 呉清友の物語』(林静宣)はよく売れています。この本は、創業の理念や背景など、誠品生活のこれまでの30年を丁寧に綴った1冊です。

IMG_4243

──なるほど。台湾のスタッフによる中国の本の選書もおこなわれているということですが、こちらに平積みされている方は台湾でいま人気の作家の方なのでしょうか?

謝:そうです! 龍應台は台湾でとても人気のある作家で、台湾の誠品書店でもこれまでに何度もトークイベントなどにも出演いただいています。日本の読者にももっと知っていただきたい作家のひとりということで、3作品をここに並べています。

IMG_4262
(左から、台湾の人気作家・龍應台による『台湾海峡一九四九』、『父を見送る』、『永遠の時の流れに-母・美君への手紙』)

──逆に、台湾でいま人気のある日本人作家は誰なんでしょうか?

謝:日本でも幅広い世代に人気の東野圭吾、そして世界的に支持されている村上春樹はやはりどの書店でもよく売れていると思います。それから、台湾の誠品書店のスタッフに吉田修一の大ファンがおり、スタッフが長年おすすめし続けていることもあって、彼もとても人気です。

──ありがとうございます。最後に、今後こちらの誠品書店、そして誠品生活日本橋はどのようなお店を目指しているかをお聞きできますか?

謝:誠品生活は“くらしと読書のカルチャー・ワンダーランド”というコンセプトを当初から掲げているのですが、それを今後、より具体的に体現していきたいと思っています。当店では読書をすることはもちろん、イベントやワークショップに参加することもできます。さまざまな体験を通じて知識を得る「動的読書」を通じ、本そのものを読む「静的読書」を牽引して循環させるというサイクルをつくる活動をしたいなと考えています。

──なるほど、イベントやワークショップと本を選ぶことのできる空間を、並列して発展させていくのですね。

謝:おっしゃるとおりです。そしてもちろん、ここ日本橋店が日本の1号店ですから、この店舗が日本と台湾の交流の文化のプラットフォームになるように努めていかなければいけません。現在も日本橋の誠品書店では新刊の発表会や著者の方によるトークショーなどをほぼ毎週おこなっているのですが、今後は日本と台湾の文学交流のイベントももっとたくさん開催したいですし、ここで開催したイベントを台湾への逆輸入の形で開催する、といったこともできればと思っています。

それから、想像以上に多くのお客さまから「中国語の本がもっと読みたい」という声も頂いているので、中国語の書籍のブックフェアなども積極的におこなっていければ、と考えています。

──誠品生活日本橋のこれからがますます楽しみです。本日はありがとうございました!

 
<店舗情報>
誠品生活日本橋
住所:東京都中央区日本橋室町3-2-1 COREDO室町テラス 2階
営業時間:10:00~21:00

初出:P+D MAGAZINE(2020/02/15)

【連載お仕事小説・第5回】ブラックどんまい! わたし仕事に本気です
HKT48田島芽瑠の「読メル幸せ」第22回