森本萌乃さん インタビュー連載「私の本」vol.18 第3回

森本萌乃さん「私の本」

本と人、人と人とのマッチングサービス「Chapters」を運営する森本萌乃さん。最終回は、個人的に人に薦めたい本、そして何度かの引っ越しを経ても、人生に寄り添い続けてくれた大事な本についてお話ししてくださいました。


小説の主人公を参考に広告の企画を考える

 大学を卒業後、第1志望の電通に就職しました。配属されたのは希望していたプロモーション事業局だったので、もう本当に嬉しかったです。

 電通というのは天才ばかりが集う会社でした。この世にない面白いものを作らなければ!という使命に燃える人が大半で、アイディアを持ち寄る打ち合わせは毎回もうめちゃくちゃ楽しかったですね。

 マーケティング戦略を練るときは、「ペルソナ」という商品やサービスを買ってくれる架空の典型ユーザー像を設定します。

 でも、実際にいない人のことを考えても仕方ないとある時私は思いました。それに普通のやり方だけじゃ天才たちにはかなわない。そこでフィクションを取り入れようと思って本と再び向き合ったのです。24歳ごろのことだったと思います。

 小説には主人公の暮らしや性格がつぶさに描かれているから、その主人公像を企画に取り入れるほうがやりやすかったし、私にとっては効果的でした。

 読んでいたのは20代の女性たちの揺れる想いを描いた等身大の小説で、江國香織さんの『きらきらひかる』や『神様のボート』、柚木麻子さんの『伊藤くんA to E』、それによしもとばななさんの本もよく手にしましたね。

 その電通は、4年で辞めました。私はいわゆる代理業ではなく、もっとユーザーと直接関わるほうが向いていると気づいたからです。創作意欲はあったけれど電通の天才たちに圧倒されたこともあって、じゃあ私は物を作るんじゃなくて、ものやサービスとの出会い方を創る人になろうという構想は、この頃からぼんやりと浮かんでいた気がします。

本の売れない時代に新たな企画を提案

 結果的に2回転職して、最後のほうは契約社員として働きながら現在に繋がる会社 MISSION ROMANTIC を立ち上げて、パラレルキャリアを謳歌していました。でもコロナ禍になり、あるとき突然、契約していた会社のクビを言い渡されたのです。

 その結果、独立して Chapters を始めることを決意しますが、資金集めは大変でしたね。ベンチャーキャピタルを中心に20社以上会いましたが、投資家は「儲ける事業にならない」と。一気に3kgくらい痩せて顔色も悪くなって、レストランのトイレで倒れたりして。

 気持ち的にボロボロになっているときに本の取り次ぎのトーハンさんが出資を決めてくださって、なんとか首の皮一枚で事業を進めることができました。

 トーハンさんも、本が売れない時代だから販売の仕方を変えなければいけないと考えていらして、それで「一緒にやりましょう」と言って下さった。本当に、決断してくださったトーハンさんには大感謝です。後から聞いた話ですが、トーハンさんというのはどちらかというと伝統を重んじる会社だそうで、私の会社への出資は前代未聞だったみたいです。これがきっかけで社内に少し外部からの風が吹き、社内でも新規事業をやりたいという人が増えてきたと聞いたときは嬉しかったです。

人生をともに歩んできた10冊の本

 私は自分にとっての人生のベスト本を家に10冊ほど飾っています。引っ越しのたびに多くの本は捨ててきましたが、それはずっと共に暮らしてきた本たちです。

 辻村深月さんの小説は割と多く愛読していて、なかでも『スロウハイツの神様』は好きすぎて、よく知り合いにも渡しています。

 青春や恋愛、家族やミステリーなどいろんな要素があるので、「自分が面白いと思った部分をテーマにした小説を次は読むといいよ」と薦めています。読書の入り口としてはとてもいい本ですね。

森本萌乃さん「私の本」

 人にも薦める代わりに、人から薦められた本は基本的に読むようにしています。なぜなら、相手がどんな人かを知りたいから。人から推薦された本って、「あの人はここで感動したのかな?」とか「このシーン私も好きだけど、あの人はどうだろう?」とか、その本を通じて自然と相手と対話して、より深く知れた気になるから不思議ですよね。

 あるとき、世界的指揮者の小澤征爾さんの『ボクの音楽武者修行』がいいと言われたので読みました。面白かったのですが、終始明るい天才のエッセイという感じで、正直私は共感ではなく圧倒されたというのが素直な感想でした。その方もどことなく天才肌な感じが出ているので、納得ですね。私が本の感想を伝えると笑っていました(笑)。

憧れのフランスの匂いと寺山修司

 それから、フランスがすごく好きなのでサマセット・モームの『月と6ペンス』もずっと手元に置いています。画家のポール・ゴーギャンをモデルにした小説で、自分が森の絵を描いていて、好きな人を家に誘うときに「一緒に森のなかに入ろう」というシーンがあって。絵のなかに入っていくその感覚がすごく素敵でした。 

 あとジャン・ポール・ディディエ・ローランの『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』も、すごいフランスっぽい匂いに満ちた作品です。

 パリ郊外の断裁工場で働く主人公は仕事にジレンマを抱えて、本の破片を持ち帰って翌朝の通勤電車のなかで読んでいる。ファンタジーの要素もあって、ちょうど物語が退屈になってくるあたりで出てくる登場人物もとてもカワイイんです。

森本萌乃さん「私の本」

 一時期、演劇を勉強していたこともあるから寺山修司の『ポケットに名言を』も愛読しています。「人生」「恋」「幸福」といったテーマ別に集めた名言が載っていますが、すごく気障で破滅的だし、恋愛に力を注いでいて、『花束みたいな恋をした』現象が私に再び起こりました、私は恋愛でここまで心砕けないなと(笑)。

 でもこの本で井伏鱒二の「さよならだけが人生だ」に出逢えて、それがすごく心に刺さりましたね。

 寺山修司はほんの短い表現に稲妻が走るときがあるんです。自分にとっての読書の楽しみとはなにかといえば、美しい日本語に出会うためだけに読んでいるところもあります。それを与えてくれたのが寺山修司であり、村上春樹であり、多くの作家さんでした。

本はとりわけ美しいもの

 私は大切な友だちや知人の誕生日ケーキを買いに行くのが大好きなんです。相手によってどの店のケーキがいいかなと考える時間が、本当に心浮き立つんですね。

 誕生日にケーキを買いに行くのと、好きな本を選ぶ作業は、私にとってはとても似ているような気がします。同じ丸い形をしてどれも並び、確かにそこに存在するのに、実際に食べたり友だちの目の前に置いてみるまで分からないことがたくさんある。

 難しいことがいろいろと多い人生のなかで、どちらもとても楽しい気分を自分に与えてくれます。とりわけ本は、文庫本600円くらいという信じられない安い価格のなかに多くの物語や言葉が詰まっている。文庫本を見ると安心するし、いわゆる「教養」や「文化」と言われるもののなかでも私にとって本はとりわけ美しいものなんです。

(貴重なお話はこれでおしまいです)
(取材・構成/鳥海美奈子 写真/五十嵐美弥)

森本萌乃(もりもと・もえの)
1990年東京生まれ、株式会社MISSION ROMANTIC代表/Chapters書店主。書店×マッチングの〝Chapters〟のプロトタイプとなるサービスを1年間1人でアナログ運用した後、2020年12月「本棚で手と手が重なるように出会えるオンライン書店」Chapters bookstoreβ版ローンチ、21年6月にグランドオープンし現在20〜30代の独身男女から支持を受け運営中。趣味は旅先での読書。

 

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