和田靜香さん インタビュー連載「私の本」vol.17 第4回

和田靜香さん「私の本」

時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』は多くの作家、知識人たちからも高く評価されました。その喜びとともに和田靜香さんが改めて気づいたのは、書くためには「とにかく本を読むしかない」という事実。そんないまの境地に迫ります。


尊敬する作家たちからの応援と賛辞

「時給はいつも最低賃金」は本当に有難いことに、多くの方から評価をいただきました。藻谷浩介さんもそのおひとりで、昨年末の毎日新聞で「今年の3冊」の筆頭にこの本を挙げてくださったんです。

 精神的にも金銭的にもどん底にいた私が地方に移住しようと、すがるような気持ちで読んだ「里山資本主義」の著書の藻谷さんが私の本を推薦してくださるとは、なんという巡りあわせだろうと驚くとともに、本当にうれしかった。その後、お礼のお手紙を書きました。

 大好きな沢野ひとしさんとも、2003年に自費出版した『わがままな病人vsつかえない医者』を文庫化して以来、ご縁ができました。

 文藝春秋の文庫の編集の方が、たまたま沢野さんの担当だったこともあって、ご自宅に連れて行ってくださったんです。そのとき沢野さんの描かれた原画を見たらそれが本当に美しくて、「プロはやっぱり違う!」と驚いたのをよく覚えています。

 そして私が沢野さんの絵を模写していることを告げると、「描き続けてください」と言ってくださった。「時給はいつも最低賃金」のもカバーをはずすと、私の描いた超下手な絵が現れますが、それも沢野さんの「描き続けてください」という言葉があったからです。この本を出版したときもお電話をいただき、何冊も本を買ってくださったりと、本当にやさしい方です。

だから今日も、本を読む

 それから高橋源一郎さんのラジオ番組「高橋源一郎の飛ぶ教室」にゲスト出演させていただいたことは、書くということを支えてくれています。ちょうど瀬戸内寂聴さんが亡くなった直後で、寂聴さんの最高傑作は小説『場所』だと源一郎さんが仰ったんです。『場所』を出版後、寂聴さんは20年間書き続けて逝去されました。

「最高傑作を書いたあとでも、作家はそれよりいいものを書けると思えるものなんですか」と私が源一郎さんにお聞きしたら、「そのあとでも最高傑作を書けるとそう思えるし、信じられる。だから毎日、本を読むんだよ」とお答えになった。その言葉に、ものすごい感動を覚えました。

和田靜香さん「私の本」

 事実、番組での私の出演時間はたった30分しかなかったのに、源一郎さんは私の著作を全部読んでくださっていて、しかもそこに付箋がいっぱい貼ってあったんです。これほど文学界で有名で地位もあるのに、私のためにこんなに勉強されて臨まれるとは、なんてすごい方なんだろうと心底驚きました。

 私は政治の本を何十冊もずっと読んできていて、自分は間違えてなかったんだ、やっぱり読むしかないんだと、そう心から思えたのです。

受動的ではなく、能動的に読書する大切さ

 小学校から高校まで、私はよく図書館や図書室に行っていたので、なにかしら本は読んでいたはずなんですよ。でもいまなにもその内容を覚えていなくて。それは、当時はベストセラーなどの話題になった本を、ただ受動的に読んでいただけだからだと思います。なにより大切なのは能動的に読むことなんだと今回、改めて気づかされました。

 最近SNSでつながっている作家の温又柔さんも、凄まじい読書量を誇る方で、その言葉の豊かさにいつも圧倒されます。温さんは台湾生まれ日本語育ちの作家さんですが、アメリカのマイノリティ文学に大変影響を受けているとトークイベントでおっしゃっていて、どうしてこんなに作家や文学や物事について知っているのかと驚くくらい本を読んでおられることがわかります。 そんなこともあって、いまの私はとにかく毎日本を読むようにしています。最近は床が本で埋まっているので先日、安価な3段ロッカーを買ったんですよ。本を並べたら瞬く間にいっぱいになってしまい、もうちょっとちゃんとした本だなを作りたいなぁと考えています。

(貴重なお話はこれでおしまいです)
(取材・構成/鳥海美奈子 写真/横田紋子)

和田靜香(わだ・しずか)
相撲・音楽ライター。千葉県生まれ。著書に『世界のおすもうさん』、『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共に共著、岩波書店)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)などがある。猫とカステラときつねうどんが好き。

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