むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第5回
お客様から「泣ける本が読みたい」と言われて、泣けるって人それぞれだからな〜と困りながらもそれでも薦める本
実はわたし共感力にはてんで自信がなくって本を読んで泣くことはめったにありません。しかしそんなわたしさえも落涙せしめた本が一冊ここにありますゆえ、きょうはこちらをご紹介いたしましょう。
森絵都さんの『DIVE!!』という作品です。
泣ける本が読みたい、そうおっしゃるあなたはこれまで難病モノ、切ない三角関係モノ、動物モノ、家族モノ、メジャーなものはひととおりおさえてこられたことでしょう。しかし意外な盲点があった。そう、スポ根モノです!
本作は水泳の「飛び込み競技」を題材にした青春小説であります。飛び込み競技とは? 「高さ10メートルの飛び込み台から時速60キロでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う」あれです。
主人公は飛び込みに打ち込む少年たち。弱小スイミングスクール存続の危機、新しいコーチ(しかも女性)、なんか無茶な条件、才能あるライバルたち、とまあまずはスポ根モノとしてまぶしいこと楽しいこと。第1部から第3部まではメインの登場人物の少年3人の視点を移しながら順番に語られるところもポイント。あれな人はもうここまででも涙腺だいぶきちゃってるかも(DIVEだけに)。
最大の読みどころは第4部の大会の場面。各選手が順番に1回ずつ飛び込む、というのを10巡していくのですが、2巡目以降は飛び込みの様子の描写はなくって、飛び込むまえの胸のうちとそのあとは全員の得点が並ぶだけなんです。だのに、だのに涙があふれてくるのです。
森絵都さんは『カラフル』という作品が名高いですが、わたしの最推しは『DIVE!!』です。
『DIVE!!』
森 絵都
角川文庫
飯田正人(いいだ・まさと)
くまざわ書店営業推進部の仕入れ担当。趣味は本を買うことと映画を観ること。
【次のお題】
ああきょうつかれたなあ、なんかいいことないかなあ、という気分の時に前向きになれる本!
【答える人】
六本松 蔦屋書店(福岡市) 山田麻奈未さん
本連載は、「〇〇な時に読む本」というお題で、書店員の皆様に「推し本」を紹介していただきます。〇〇部分は、前号執筆した方が、次の執筆者に対して提案します。
〈「STORY BOX」2023年1月号掲載〉