むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第1回

むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第1回
 お 題 
いろいろあって現実には旅行できないけど、せめて脳内トリップしたい時に読む本

 旅行がめんどくさい。交通機関を調べたり、宿を予約したり、地図でいきたい場所と場所の位置関係を見て唸ったり、天気の心配をしたり、荷づくりにそわそわしたり、靴はどうしようか悩んだり。出発前の考えることリストを考えるのがめんどくさい。わたしはあまり旅に向いた人間ではない。

 そんなわたしが旅を夢見てうっとりしてしまった、とっておきの物語がある。それが筒井康隆さんの『旅のラゴス』だ。

 この本を家のソファーの上で読みはじめたわたしは、その場から一歩も動かずに、とてつもなく奇妙で、長い長い旅をすることになった。

 

 ラゴスが旅するのはこことは少し違う世界。

 ときには離れた場所に「転移」したり、壁抜けや読心術が使える人がいたり。高度文明を失くしてしまったかわりに、そんな超能力がごく普通に使われている。

 ラゴスはいったい何のために旅を続けるのか。それは本を読むうちに少しずつ明らかになるのだけれど、とにかくとんでもない旅に何度も何度も驚かされる。読書を愛するみなさんにはぜひとも読んでほしい、すばらしい場面も待っている。

 彼とともに悲しみ、くすっと笑い、簡素でありながら真理を突いた言葉にはっとする。本を読むことは、それがたとえソファーの上でも、こんなにもめくるめく体験をするということなんだ! という強い実感に貫かれたのを鮮明に憶えている。

 実際に旅に出られないなら、思いきって異世界のラゴスの不思議で壮大な旅に同行するのもいいかもしれない。

旅のラゴス

『旅のラゴス』
筒井康隆
新潮文庫

山中由貴(やまなか・ゆき)
TSUTAYA 中万々店の本担当、書店員16年目。フリーペーパーや Twitter で、これはという本の情報発信をしています。


【次のお題】
本を読み終わるまで読書休暇をとっていいよ、仕事も家事も育児もお休みでいいよ、といわれたときに読む本
【答える人】
紀伊國屋書店ゆめタウン下松店 池田まさたかさん
 
本連載は、「〇〇な時に読む本」というお題で、書店員の皆様に「推し本」を紹介していただきます。〇〇部分は、前号執筆した方が、次の執筆者に対して提案します。


〈「STORY BOX」2022年9月号掲載〉

SPECIALインタビュー◇ 今野 敏 ◇快感原則の先に「理想の刑事」あり〈レジェンドが語る「警察小説の書き方」〉
ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第90回