むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第6回
ああきょうつかれたなあ、なんかいいことないかなあ、という気分の時に前向きになれる本!
〝トボトボ〟としか表現できないほどトボトボと歩く帰り道がある。
特にここ数年は、そんな日が増えたような気がする。人との距離は空けること、不要不急の外出は避けること、急な予定変更、中止、制限、我慢我慢我慢……。何と戦っているのかわからないけれど、増す疲労。
そんな変化の日々に積もっていった疲労が隠しきれない夜、トボトボと歩き家に帰り着いた私が手に取り、少しずつ読んでいるのは『空気の日記』だ。
コロナ禍の2020年4月1日から2021年3月31日の365日間、23人の詩人が書き続けた輪番制の日記をまとめた一冊。『未曾有の事態なので様々な出来事は記録されていきますが、人々の感情の変化の様子をしっかり留めておくべきではないか』というこの企画の呼びかけ文の通り、どんな日の誰の日記にも、その時々の感情が書き留められている。刻々と変わる状況の中での困惑、不安、そんな全てになんとなく慣れていくこと、今なお慣れきれずにいること。
この感情の記録からは、同じ不安の中で同じ時を生きてきた人たちの息遣いを感じられる。
からだや心がヘトヘトの時に欲しいのは、毎日を切実に生きる誰かの言葉なのだと思う。
「人とは2メートル以上距離をとりましょう」と言われても、私は誰かの存在をすぐそばで感じたい。毎日少しずつ読み進めるこの本に励まされ、明日は背筋をシャンと伸ばししっかりと歩こうと心に決める。
『空気の日記』
新井高子 石松佳 覚和歌子 柏木麻里 カニエ・ナハ 川口晴美 河野聡子 さとう三千魚 白井明大 鈴木一平 ジョーダン・A・Y・スミス 田中庸介 田野倉康一 永方佑樹 藤倉めぐみ 文月悠光 松田朋春 三角みづ紀 峯澤典子 宮尾節子 山田亮太 四元康祐 渡辺玄英
書肆侃侃房
山田麻奈未(やまだ・まなみ)
書店員8年目。本とお喋り好きが高じ、毎月福岡のラジオ番組で本を紹介しています。
【次のお題】
今年こそ変わりたい! 変わるぞ私! と意気込む時に読む本
【答える人】
紀伊國屋書店 福岡本店 宗岡敦子さん
本連載は、「〇〇な時に読む本」というお題で、書店員の皆様に「推し本」を紹介していただきます。〇〇部分は、前号執筆した方が、次の執筆者に対して提案します。
〈「STORY BOX」2023年2月号掲載〉