思い出の味 ◈ 伊吹有喜

第9回
「カツにかける物、思い」
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 小学五年生の頃、同級生が興奮気味に、親戚がトンカツに醤油をかけて食べていたと語りました。カツに醤油はおかしいというのです。彼女の言葉に深くうなずき、私は同じぐらいの熱量で答えました。

「そうだよね、カツには味噌だよね、ちょっと甘めの赤味噌ダレ!」

 えっ? と彼女は一瞬目を泳がせたのち、おもむろに言いました。

「それって味噌カツじゃない?」

 今度は私が「ええっ」と驚く番です。我が家で単にカツと呼ばれているあの料理は実は味噌カツだったのか。

 カツにはソースだよ! と言いつのる彼女に、別の同級生が静かに言いました。

「そうなの? うちはレモンだよ」

 それをきっかけに、ソース、ケチャップとソースを混ぜたもの、カラシ、何もかけない、大根おろし&ポン酢など、ソース派が多いながらも、家によってさまざまな食べ方が出てきて驚きました。

 それから七年後、新宿「すずや」で「とんかつ茶づけ」を見たとき「お茶とも合うんだ」と再び驚きました。こちらはカツを数きれ食べたあと、シメにお茶漬けにするという食べ方で、一回で二度のおいしさが楽しめます。上京以来三十年近く食べ続け、とても好きなので新宿を舞台にした『情熱のナポリタン BAR追分』という作品で描かせてもらいました。

 そしてカツといえば新潟も忘れられません。新潟のカツ丼は玉子でとじず、甘辛いタレがしみたカツがご飯の上に載っているのです。このカツとふっくらと炊かれた白米の組み合わせは素敵です。『ミッドナイト・バス』の取材に行くたびにテイクアウトして、宿泊先で資料を整理しながら、ビールとともに味わいました。ビールとの相性がまた最高なのです。

 ああカツよカツ。猛烈にカツが食べたくなってきました。そして今度はカツサンドの姿が頭に浮かんできました。皆様、カツサンドはキャベツ入り、キャベツなし、どちらがお好きですか。このキャベツに関する考察を語らせると私は止まらないのですが、それはまたの機会に……。

 

伊吹有喜(いぶき・ゆき)

1969年三重県生まれ。2008年『風待ちのひと』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞してデビュー。著書に『ミッドナイト・バス』『彼方の友へ』などがある。

〈「STORY BOX」2018年7月号掲載〉