【著者インタビュー】高村 薫『我らが少女A』/12年前の老女殺しの真相は?

池袋のアパートで起こった、若い女性が交際相手に撲殺されるというありふれた事件。しかし被害者が12年前に起きた老女殺し事件にもかかわっていたかもしれないとわかり、様相は一変する――。『マークスの山』から始まった、刑事・合田雄一郎シリーズ7年ぶりの新作。

【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】

シリーズ最新作が登場! 刑事だった合田がかつて辿り着けなかった未解決事件の真相とは。12年前の老女殺しが歪めた関係者等のその後。

『我らが少女A』
我らが少女A 書影
毎日新聞出版 1944円

『マークスの山』から始まり、『照柿』『レディ・ジョーカー』『太陽を曳く馬』『冷血』に続く、7年ぶり6作目となる刑事・合田雄一郎シリーズの最新作。2017年、同居していた女性を殺害した男の供述から、2005年に起きた「野川の老女殺し」の未解決事件が動き出す。〈当時の事件係は誰だ? 合田? あいつ、いまは警大だったか―?〉毎日新聞連載時に掲載された、画家、イラストレーター、写真家ら24人が日替わりで描いた挿画355枚を収録した「挿画集」(故・多田和博さん監修)も発売されている。

高村 薫
高村薫
●TAKAMURA KAORU 1953年大阪市生まれ。1990年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞を受賞しデビュー。’93年『マークスの山』で直木賞、『リヴィエラを撃て』で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、’98年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞、2006年『新リア王』で親鸞賞、’10年『太陽を曳く馬』で読売文学賞、’17年『土の記』で野間文芸賞を受賞。

ひとつの事件が起こす、周囲の関係者へのさざ波、様々な反応の連鎖を書きたかった

 池袋のアパートで若い女性が撲殺され、交際相手が逮捕される。
 ありふれた事件だが、被害者が12年前に起きた別の殺人事件にかかわっていたかもしれないとわかり、様相は一変する。15歳の「少女A」だった彼女は、この世から永遠に消えた後で、関係者の心の中に様々な形で蘇るのだ。
「解決されずに忘れられていく事件はたくさんありますけど、被害者遺族や加害者とその家族はもちろん、友人や知人といった関係者にもさざ波を起こします。波はあっちでつながり、こっちでつながり、いろんな反応をひき起こす。その連鎖反応が小説空間になる。そういう小説を書きたかったので、逆に核となる事件は目立たないものにしています」
 高村さんの警察小説でおなじみの合田雄一郎は、12年前の事件を捜査し、現在は警察大学校で教えているという設定だ。被害者の孫娘をストーカーしていたADHD(注意欠陥多動性障害)の少年を住居侵入容疑で逮捕、少年は事件現場に行っていなかったとわかるが、刑事だった少年の父親は退職を余儀なくされた過去がある。
「もともと、警察小説を書くというのは、私にとっては警察に対する違和感との戦いで、合田というのはそれを表す人物です。作品を発表するごとに合田も年を重ね、『冷血』のときの階級は警部で、現場で捜査をする立場ではないのでかなり書きにくかった。警察小説は現場に出てこそですから。今回は、警察大学校の教授という一線から引いた存在にしました」
 12年前の事件の舞台である武蔵野は、高村さんが学生時代を過ごした場所だ。土地の醸す独特の空気が作品にも色濃く描かれる。
 つかまえようのない真実を追う小説は、視点人物が次々に代わり、その都度、見える景色も変わっていく。高村さんにとって久しぶりの新聞小説でもある。連載中は、毎回、挿画家が変わった。多くの高村作品を手がけた装丁家で、昨年2月に亡くなった盟友多田和博さんのアイディアだった。
「新しい挑戦をしたいという彼の熱意に引きずられて、私も一生懸命、書きました。毎朝、新聞を開いて初めて見る絵に、ずいぶん刺激を受けましたね」

素顔を知りたくて SEVEN’S Question

Q1 最近読んで面白かった本は?
いろんなものを読むので、う~ん(苦笑)。

Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
古井由吉さん。

Q3 好きなテレビ・ラジオ番組は?
NHKの定時のニュースしか基本的に観ませんが、たまに、関係ない時代劇を観たりもします。頭がからっぽになるので。

Q4 趣味はなんですか?
乗馬です。家から歩いて15分のところに馬場があるので、週に4日ぐらいは馬に乗ります。朝早くに行くときもあれば午後から行くときもあり、まちまちです。

Q5 最近ハマっていることは?
土いじりも、音楽を聴くことも、ずっと続けてることの方が多くて、新しく何かをということはありません。

Q6 ゲームにはハマりませんでしたか?
割と運動神経はいい方だと思ってますけど、ゲームはヘタ。小説に書くため一通りやったけど、書き終えた後でもやりたいと思ったのはなかったですね。

Q7 一番リラックスする時間は?
寝るときです。寝る前に、ウイスキーを一杯いただく、そのときが一番、幸せです。あるものをいただきますが、いまは山崎が一番、口に合います。

●取材・構成/佐久間文子
●撮影/黒石あみ

(女性セブン 2019年8.15号より)

初出:P+D MAGAZINE(2020/03/18)

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