黄未来『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』/ミドル以上の世代が知るべき“いまどきの価値観”

「機械にすすめられたものしか見ない」「個人情報は明け渡す」等々……。これまでの日本社会ではネガティブにとらえられるようなことが、ハイテク化の常識とされている中国の「いま」がわかる一冊!

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
香山リカ【精神科医】

TikTok 最強のSNSは中国から生まれる

黄未来著
ダイヤモンド社
1500円+税
装丁/杉山健太郎

個人情報を明け渡すことも厭わないSNS先進国の「いま」

 日中で活躍するビジネスウーマンによる本書は、最新トレンドに敏感な若手層でいま大ヒット中だ。しかし私としては、むしろSNS事情やいまやその先進国である中国についてよく知らない、ミドル以上にこそ読んでもらいたい。そして、本書で紹介されている「ティックトック(TikTok)」という動画投稿アプリの技術などの話は飛ばして、とにかくその背景にある“いまどきの価値観”にふれ、考えてほしいのだ。
 現在ティックトックを提供している中国企業で働く著者は、いまやこのアプリを世界で5億人以上が日常的に使っていることを受けて、こう言い切る。「人々はテキストよりも画像、動画を求めている」。テキストつまり文字で情報を得る時代は終わり、友だちとの会話、ニュース収集、買い物はもちろん、勉強さえ動画で行うようになるというのだ。そして、「現代人の生活が忙しくなるほど、人の集中力が低くなるほど、(中略)ショートムービーは最適」となり、長い動画ではなく最長1分のティックトックが求められる。
 また、ティックトックの会社は、もともとAIを得意としているため、ユーザーは自分で次に見たい動画を検索しなくても、向こうが勝手に「次はこれね?」と自分にあった動画を流してくれるのだ。この「レコメンド機能」を利用するにはそれぞれのユーザーの情報が必要となるが、中国では「便利になるのであれば、個人情報をプラットフォームに明け渡すことに賛成する」という人が大部分を占めるので、抵抗もないのだという。
 どうだろう。「文字ではなく動画、それも1分以内」「機械にすすめられたものしか見ない」「個人情報は明け渡す」など、これまでの日本社会ではネガティブにとらえられるようなことが、いずれも社会のハイテク化の常識とされているのだ。「なるほど、これが現実か」と思うか、それとも「それは違うだろう」と警鐘を鳴らしたくなるか。夏に出た『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)と合わせて読むことをおすすめする。

(週刊ポスト 2019年12.6号より)

初出:P+D MAGAZINE(2020/05/10)

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