【著者インタビュー】久世番子『よちよち文藝部 世界文學篇』/登場人物のカタカナ名前が覚えられないところからの挑戦!
漫画家の久世番子部長と、その担当編集者が世界の文学について語り合う一冊。世界文学をまったく読んでいなかったという部長が、海抜ゼロメートル地帯から最高峰の世界文学に挑みます!
【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】
海抜ゼロメートル地帯から教科書に載る世界文学の峰々に挑んだ、笑えて読めて面白い手加減ゼロの「鑑賞」漫画!
『よちよち文藝部 世界文學篇』
文藝春秋 1000円
番子部長と担当編集者が『ハムレット』『老人と海』『ドン・キホーテ』『高慢と偏見』『阿Q正伝』『神曲』など、世界各国の名作文学15作品を読み解くコミックエッセイ。作中の番子部長は実際の久世さんとイメージが重なる。「最初はペンギンを描いていましたが、肌が魚肉ソーセージ色なので、今では何の生きものかわからなくなっています(笑い)」。
久世番子
●KUZE BANKO 1977年愛知県生まれ。2000年に漫画家デビュー。書店でのアルバイト経験をもとに描いたコミックエッセイ『暴れん坊本屋さん』がベストセラーになる。’06年に書店を退職し、専業の漫画家に。著書に『パレス・メイヂ』『宮廷画家のうるさい余白』『神は細部に宿るのよ』、日本の文豪の作品を取り上げた『よちよち文藝部』など。
『罪と罰』が読めたとき、もう怖いものはない! と自信がつきました
番子部長と、たった一人の部員である担当編集者が文学作品について語り合う「よちよち文藝部」。日本文学篇から8年を経て、待望の世界文学篇が出版された。
「世界文学をまったく読んでいなかったので、海抜ゼロメートル地帯からの挑戦でした。横文字が苦手で、登場人物のカタカナ名前が覚えられないんですよ」
最初に取り上げた『モンテ・クリスト伯』は、登場人物をわかりやすく日本の名前にした明治時代の翻訳を読んで、あらすじをつかんだ。だんだんと慣れていって、「ドストエフスキーの『罪と罰』が読めたとき、すごい自信がついたんです。これが読めたんだから、もう怖いものはない! そこから先は気が楽になりました」
どれも名作と言われる15作に挑戦したが、出てくる虫に過剰反応したり、3回読んでも面白さがわからなくて、ファンに「ならねーよ」と切り捨てたり、正直すぎる格闘ぶりが描かれている。
そんな中で久世さんが勧めるのが『風と共に去りぬ』だ。女性が好きそうと高をくくっていたら、現代に通じる面白さがあり、男性の担当編集者にも大好評だった。
「映画は恋愛にフォーカスされていますが、原作はもっと重層的な話。恋敵で友達でもあるメラニーとの関係、2人の生き方が中心になっているんですよ。やっぱり読まないとわからないですね」
もう一つのおすすめは『怒りの葡萄』。なぜ葡萄が怒っているのかと思いつつ読んでみると、田舎で生活できなくなって移住する人々の貧しさが、やはり現代的なものに思える感動作だった。
「どちらの作品も喉ごしがよく、ゴクゴク飲めて体にしみわたっていく感じ。世界文学は何回も読むというより、一回目に読んだとき、体に入ってくるかどうかです」
世界文学の峰々に登ってみてわかったのは翻訳の大切さだった。海外の名作は、複数の人が翻訳している場合が多い。
「自分に合わない人の訳を読むと途中で挫折してしまうので、自分に合う翻訳者を探すといいですよ。 冒頭の何ページかを読んでみると、合うかどうかわかりますから」
山頂への道は平坦ではないけれど、ルートを選べばフィニッシュできる。見渡す景色は格別だ。番子部長をガイドに、世界文学の峰々に足を踏み入れてみては?
素顔を知りたくて SEVEN’S Question-1
Q1 最近読んで面白かった本は?
動物との性愛を描いた『聖なるズー』。こんな世界があったのか!と思いました。
Q2 新刊が出ると必ず読む好きな作家は?
漫画家の山岸涼子先生ですね。
Q3 好きなテレビ番組は?
NHK BSプレミアム『岩合光昭の世界ネコ歩き』。大河ドラマも好きです。昨年は『いだてん』を見て、毎週絵を描いていました。
Q4 最近気になるニュースは?
東出(昌大)くんの不倫はショックでしたね。でも、朝ドラのいい夫婦で勝手に幻想を抱いた私が悪かったんです。その夫婦に何が起こっているかはやっぱり他人にはわかりませんよね。反省しました(苦笑)。
Q5 最近ハマっていることは?
ツイッターにハマって中毒気味なので、あえて通信データ量がいちばん少ない契約にして、外出時はWi-Fiも切って見ないようにしています。家ではめちゃくちゃ見てますけど(笑い)。
Q6 リラックスする時間は?
漫画を読んでいるときと、脳を全然使わないで海外ドラマをダラダラ見ているとき。
●取材・構成/仲宇佐ゆり
●イラスト/久世番子
(女性セブン 2020年2.20号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/07/07)