玉村豊男『毎日が最後の晩餐』/ワイナリー・オーナーが選りすぐった極上レシピ

ワイナリー・オーナーでもある著者の玉村豊男氏が74歳になったとき、妻に「料理のレシピを書いておいて」と頼まれて書いたのがこの本。作家・嵐山光三郎がワーッと声をあげて本に向かって拍手したという、極上のレシピ集です。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
嵐山光三郎【作家】

毎日が最後の晩餐

玉村豊男 著
天夢人
1800円+税
デザイン/高橋 潤

声を上げ、拍手したくなる選りすぐりのレシピ集

 不死身のワイナリー・オーナー玉村豊男はフランスで自炊をはじめてから50年たち、ワインを飲みながら、ぶどう畑にしずむ夕日をながめる優雅な日々。74歳になったとき、シンデレラ姫のように美しい妻サエ子さんに、「料理のレシピを書いておいて」と頼まれた。いままで五冊の料理本を出してきたが、そのなかでよりすぐりを選んで、ていねいに書いたのがこの一冊である。
「先ベジ」といって、さきにベジタブル。冷えた白ワイン。飲みかけのワインが三本ぐらいあり、栓を抜いて三日ぐらいたったワインがいける。熟成しておいしくなる。グリーンサラダの写真を見たら、手をのばして食べたくなっちゃった。サラダリーフとレタス。傑作は萎びた白菜のロースト。飼っているヤギ子用の白菜の芯の部分をタテ切りにして焼く。うーん、根性あるな。
 台所の片隅に放置された大根や芽が出たジャガイモを調理する。古大根は甘味が増え、水分が抜けたジャガイモは旨味が凝縮して滋味深い。年老いて衰えた野菜に隠れた旨味を発見する。
 野菜畑で収穫したミニトマトを焼く。いいなあ!ゴックンと唾を飲みこんだ。野菜のグリルはガスコンロの上に網をのせて直火焼き。
 パプリカ、ピーマン、ズッキーニ、カブ、大根、キノコ、オクラ、カリフラワー、レンコンなどすべて直火焼き。焼きあがったと判断したものから、順に取り上げる。全部をボウルに取り終えたら、全体に塩とオリーブオイルを振りかけて揺さぶる。
 調理法が、素人でもできるようにていねいに書いてあるから、さっそく試してみた。ズッキーニは輪切り。キノコのカリカリ焼きは、フライパンでエノキだけで調理するのがおすすめ。スーパーで買ってきた茹でタコのパックも玉村式に調理してみせる。近所へタコを買いに行き、まねして作ったら、いけるんですねえ。
 読みながら、ワーッと声をあげて、本にむかって拍手してしまった極上の『最後の晩餐』だ。

(週刊ポスト 2020年6.5号より)

初出:P+D MAGAZINE(2020/09/08)

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