◎編集者コラム◎ 『ハーフムーン街の殺人』著/アレックス・リーヴ 訳/満園真木

◎編集者コラム◎

『ハーフムーン街の殺人』著/アレックス・リーヴ 訳/満園真木


加古さん

 本書の原題は「THE HOUSE OF HALF MOON STREET」。舞台は、1880年、ヴィクトリア朝後期のロンドン。──とくれば、おわかりだろう。シャーロック・ホームズの時代である。物語の中心にはテムズ川が流れ、その暗く淀んだ気配が、まさにホームズが活躍した世界に通じているように感じさせてくれるのだ。……と、言い切ってみましたが、上司の受け売りです。すみません。

 翻訳小説を担当するのは、二年半ぶり二冊目です。翻訳書をたくさん手掛けている編集者には当たり前のことかもしれませんが、ひさしぶりの担当で実感したのは、翻訳家の力の大きさでした。

 本作の翻訳は満園真木さん。原文は、時代感を感じさせる修飾の多い長い文章で、そのまま訳すと、主語と述語が離れる日本語にはそぐわず、ゴールを見失ってあらぬところに着地しそう……な感じです。満園さんには、原文の雰囲気を損なうことなく、日本語として読みやすく、リズムのある文章に仕上げていただきました。

 話がそれますが、「小説丸」に「翻訳者は語る」というインタビューが掲載されており、満園さんの回も読むことができます。翻訳のテクニックはもちろん、子どものころのことや好きな本などとても興味深い内容です。

 本題に戻り、『ハーフムーン街の殺人』。19世紀末が舞台とはいえ、テーマは現代にも通じます。主人公の解剖医助手レオ・スタンホープは、トランスジェンダーです。レオは、牧師の娘として生まれながら、15歳で家を出て男として生きることを選びました。思いを寄せていた娼婦・マリア殺害を疑われたレオが真犯人を探して、ロンドンの街を駆け抜けます。レオの孤独で過酷な捜査の行方を、ぜひ見届けてください!

 レオには、実在のモデルがおり、ヴィクトリア朝時代の文献を調べるとトランスジェンダーが多く存在していたこともわかるそうです。ただ、この時代を舞台にした小説で、同性愛が扱われることはあってもトランスジェンダーが登場するものはほとんどありません。「存在していながら見えないことにされ、抑圧されていた人々に声を与えたい」という著者の思いが、この作品に込められていると知り、胸が熱くなりました(くわしくは「訳者あとがき」をお読みください)。

 カバーデザインは、水戸部功さん。帯を外してみてください。テムズ川の水面を感じていただけると思います!

──『ハーフムーン街の殺人』担当者より
 

ハーフムーン街の殺人

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