◎編集者コラム◎ 『夜に啼く森』リサ・ガードナー 訳/満園真木

◎編集者コラム◎

『夜に啼く森』リサ・ガードナー 訳/満園真木


『夜に啼く森』写真

無痛の子』『棺の女』『完璧な家族』『噤みの家』と、小学館文庫より4作をご紹介してきたリサ・ガードナーの刑事D・D・ウォレンシリーズ。本国アメリカでは長編12作、短編4作が発表されていて、新作が出るごとに主要メディアのベストセラーリストにランクインする人気シリーズです。その長編12作目、シリーズ一区切りの作品となる「WHEN YOU SEE ME」の邦訳『夜に啼く森』(満園真木 訳)がついに刊行されました。「一区切り」という言い方をしたのは、著者がシリーズ完結を名言していないからですが、3年前に本作を出版した後に新シリーズをスタートさせていること、そして本作の結末からも、著者の「シリーズ一区切り」という意志が感じられます。

 そんな本シリーズは、ツイストが効いたスリラーとしての素晴らしさに加えて、女性たちのキャラクターとその関係性も大きな魅力です。主人公のボストン市警部長刑事D・D・ウォレンと、『棺の女』以降彼女のバディとなった監禁事件の生還者(サバイバー)にしてD・Dの捜査協力者フローラ・デインをはじめ、登場する女性たちがとにかくタフでかっこよく、彼女たちの揺るぎない信頼や連帯には、毎作胸熱になります。

『夜に啼く森』は、まさにその総決算。ジョージア州北部の山道で女性の遺骨が発見され、D・Dとフローラ、もう一人の捜査協力者コンピュータ・アナリストのキースが現地に飛び、フローラの監禁事件の時に突入を指揮し彼女を保護したFBI捜査官のキンバリーのチームと合流、フローラを監禁した異常犯罪者ジェイコブ(故人)の一連の事件を繙こうとします。捜査中にD・Dが出会ったのは、町の名士の元で働くメイドの少女。脳の損傷の影響で話すことができない少女に何かを感じ取るD・D。そしてさらなる事件が……。

 かつてジェイコブにさらわれて木の箱に閉じ込められ性奴隷にされるという、地獄の472日間を生き抜いたフローラ。そんな彼女を生還後も苦しめ続けた事件の真相や、言葉を無くした少女の過去、新たな事件など、重層的に描かれる様々な要素。ページターナーであることは言わずもがな、それに加えてとにかく女性たちのかっこよさと言ったら。D・D、フローラ、キンバリー、少女までもが満身創痍になりながら「怪物」と闘う姿、闘うための連帯、各々が必死に過去を乗り越えていく姿にゲラを読みながら痺れまくりました。

 そんな女性たちを支えるパートナーとの関係もいい。D・Dとキンバリーには留守中に家事と育児をどんと引き受けてくれる夫がいて、心折れそうになった時には電話で交わす夫との何気ない会話が救いになっていて思わずほっこりしたり、監禁事件の後は男性と関われなくなったフローラを優しく支えるキース、そのもどかしい関係にドキドキさせられたり。救いの無い状況、絶望モードの中だからこそ、そんな温かい場面が光ります。

 ところで「一区切り」と言ったものの、担当者としてはまだまだこれで終わってほしくないというのが本音です。実は今回登場するキンバリーは、著者のもうひとつの人気シリーズの主人公で、本作はふたつのシリーズのクロスオーバー小説でもあるのです。ということは、今後著者の新シリーズにD・Dやフローラたちが登場するかもしれない。いやひょっとすると、自警団としてD・Dばりの活躍を見せてきたフローラと、FBIのデジタル担当にも一目置かれるキースがコンビとなって帰ってくるかもしれない……。そんな風に彼らとの再会を楽しみにしつつ、まずはこの作品、そして既刊が一人でも多くの人に届くことを願っています。

──『夜に啼く森』担当者より

夜に啼く森
『夜に啼く森』
リサ・ガードナー 訳/満園真木
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