今月のイチオシ本【ノンフィクション】
安倍内閣の政策の大きな柱のひとつに女性活躍推進がある。しかし現実はようやく緒に就いたばかりのような気がする。ヒラリー・クリントンが言う「ガラスの天井」は日本では更に厚く固い。
百年以上前に国家と対決した女性たちがいた。『女たちのテロル』は日本、イギリス、アイルランドで権力に立ち向かった女性三人の生きざまを描く。
著者はイギリス在住のジャーナリスト、ブレイディみかこ。『子どもたちの階級闘争─ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)は、保育士の資格を持つ著者が、最底辺の託児所で知ったイギリスの人々の暮らしを描き、第16回新潮ドキュメント賞を受賞している。
本書で取り上げた女性は、大正期に活動したアナキスト、金子文子、イギリスの女性参政権獲得のために命をかけたエミリー・デイヴィソン、アイルランドの独立運動を推し進めた凄腕スナイパー、マーガレット・スキニダー。
三人とも、女性が国家や男たちの陰で虐げられることを潔しとせず、権力に敢然と立ち向かっていった女傑である。
文子は1903年(明治36年)生まれ。だが複雑な事情から戸籍をもたずに育った。朝鮮に住む祖母のもとで牛馬のようにこき使われ、世の不条理を知る。帰国後はアナキストとして活動し、後に大逆事件で逮捕され刑務所で自殺している。
エミリーはサフラジェット(女性参政権活動家)の中でも特に過激であり、死ぬまでに9回も刑務所に送られ、そのたびにハンガーストライキを行い、主張を通そうとした。競馬場で馬に蹴られて死ぬ様子は多くの人に目撃された。
数学教師のマーガレットはアイルランド人の両親とともにイギリスに住んでいたが、アイルランド独立運動の中心人物から誘われて、イースター蜂起に参加。第一次世界大戦時に狙撃の訓練を受けスナイパーとなり、爆破攻撃などの指揮もとった。
女性が自らの権利を、命をかけて手に入れようとした行動は、確かに過激でテロリズムだと思う。しかし、彼女たちの勇気に拍手をおくりたい。