今月のイチオシ本【デビュー小説】

『星砕きの娘』
松葉屋なつみ

東京創元社 本体1800円+税

 松葉屋なつみ『星砕きの娘』は、東京創元社が主催する創元ファンタジイ新人賞の今年(第4回)の受賞作。ファンタジイはあんまり……という読者もいるだろうが、本書はのっけからぐいぐい読ませる伝奇時代小説の秀作だ。鬼退治をモチーフにしている点は、直木賞候補になった今村翔吾『童の神』と共通するが、本書の時代設定はおそらく室町時代か。

 といっても、物語の舞台は、鬼が跋扈する、〝敷島国〟と呼ばれる架空の島国。主人公の少年・鉉太は、果州の有力者・阿藤氏隆の嫡男だったが、幼い頃、羅陵王率いる鬼の軍勢にさらわれて以来、鬼の島にある砦に囚われて生きていた。その鉉太が、ある日たまたま川で拾ったのが、上流から流れてきた桃──ではなく蓮の蕾。それを砦に持ち帰ると、驚いたことに蕾は赤子の姿に変わっていた。蓮華と名づけられた赤ん坊は、たちまち美しい娘に成長する。おまけに恐ろしく腕が立つが、蕾から生まれただけあって、ふつうの人間ではない。夜ごと、〈明〉の星が昇るたび、赤子に戻ってしまうのである。鉉太はその蓮華の世話を焼き、蓮華は鉉太を〝とと〟と呼んで、幼い子どものようにまとわりつく。そんな日々が続くなか、朝廷の命を受けた討伐軍が、鬼の島へと向かってくる……。

 というわけで、小説の序盤は、桃太郎説話を変奏したような物語が、思いきり派手な剣戟シーンとともにテンポよく描かれる。蓮華が揮うのは破魔の太刀。

〈蓮華が太刀を振り下ろすたびに、日を受けた刃が水晶のように輝き、太刀を右へ左へと返すたびに、神々しい領巾のような軌跡が宙に瞬く。鬼は一瞬にして無数の星となり、儚い光を放って散ってゆく。己に何が起こったか、斬られた鬼にも気付く暇がなかったろう〉

 このパートだけでもじゅうぶんスリリングだが、後半は小説の背景に秘められた謎が明らかになり、鬼と人間の関係をめぐる情念のドラマに転調する。もっとも、蓮華の明るいキャラクターや個性的な脇役陣のおかげで物語が過度に重くなることはなく、爽やかな読み心地。一気に読ませる快作だ。

(文/大森 望)
〈「STORY BOX」2019年11月号掲載〉
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