今月のイチオシ本【エンタメ小説】

『スナック墓場』
嶋津 輝

文藝春秋 本体1400円+税

 本書は、第九十六回オール讀物新人賞受賞作「姉といもうと」を含む7篇からなる短編集で、作者の嶋津輝さんのデビュー作でもある。帯コピーにある、森絵都さんの「どっかりしていて、愛嬌がある小説」(「姉といもうと」選評)という言葉は、受賞作のみならず、他の収録作6篇にも当てはまる。なんというか、全ての短編が、チャーミングなのである。それも、可愛らしい系のそれではなく、骨太系の。

 どの短編も、読んだあとでふっと気持ちが柔らかくなるような読み心地なのだが、いわゆる癒し系と一線を画しているのは、ぐふっ、と吹き出してしまう可笑しみもあるからだ。たとえば、「ラインのふたり」。この「ライン」は、今どきの「LINE」ではなく、倉庫での作業の「ライン」であることもミソなのだけど、そこで作業をする亜耶が、作業員を監督する社員の女性につけたあだ名が「ジャミラ」であるとか、その亜耶が実は高校、大学では射撃部だったこととか。

 個人的ベストは表題作の「スナック墓場」とどちらにするか迷いに迷って、っでもやっぱりこっち、の「一等賞」を。

 とある町の商店街の話だ。その商店街のそば屋でアルバイトをしにやってきたユキは、不思議な光景を目にする。切羽詰まった様子で「アラオ」を探す男を、商店街の人々は、見事な連携プレーで自宅アパートへと戻らせたのだ。男は「荒雄」という名で、酒の飲み過ぎにより十年くらい前から発作が出るようになったという。幻覚が見えたりすると、混乱してアパートを飛び出して、商店街に現れる。今は、治療を受け、酒は飲んでいないが、時折発作は起こる。発作には色んなパターンがあるが、商店街の人々は、都度、その発作に対応していた。

 発作が治まった翌日、何も覚えていない荒雄が買い物にやってくると、商店街の店主たちは言うのだ。「昨日はちょっと厄介だったよ」とか、「今回はラクなもんだったよ」とか。この、荒雄の発作を「決してなかったことにはしない」という一文の、荒雄に対する距離と優しさが本当に素晴らしい。読むべし! の一冊。

(文/吉田伸子)
〈「STORY BOX」2019年12月号掲載〉
◎編集者コラム◎ 『謎解きはディナーのあとで ベスト版』東川篤哉
◎編集者コラム◎ 『ツタよ、ツタ』大島真寿美