今月のイチオシ本【警察小説】

『ゴースト アンド ポリス GAP』
佐野 晶

小学館 本体1500円+税

 主人公は〝ごんぞう〟というと、どこかの田舎のおっさんの話のようだが、これは隠語でやる気のない、自主的窓際警官のこと。本書はその異色の男たちの姿を描いた第一回警察小説大賞受賞作だ。

 神奈川県警の新米警官・桐野哲也が職場実習に配属されたのは藤沢市の国道1号線に面した鳩裏交番だったが、交番前できゃりーぱみゅぱみゅのヒット曲を口ずさみながら立番をしている警官を見て気が重くなる。ハンサムなその警官は桐野の所属する班の班長・小貫幸也だった。彼は桐野に「俺たちはごんぞうだから、無駄な仕事はしないから。張り切ってガタガタ騒いだりしないでね」と宣言する。

 鳩裏交番は警察庁が管理する一日八時間で四交代制の勤務形態の実験交番だったが、その募集に応じたのはごんぞうばかり。各警察署が厄介払いした結果であったが、サッチョウの人事だから県警側は手出し出来ない。実は、桐野はごんぞうを疎んじる藤沢南署の副署長・戸村雅子から、彼らの尻尾をつかむよう直々に命を受けていた。それというのも、桐野は東北大学出身の高学歴者。試験に弱くノンキャリアに甘んじていたが、出世欲はまだあった。

 鳩裏交番は噂通りのはき溜めで、警官たちは茶飲み話に興じて緊急配備の連絡にもロクに応じず、正義感に燃える桐野の反感は募るばかり。そんなある日、駅の北口で焼き鳥屋を営んでいる北村という男が訪ねてくる。オバケに家を覗かれているというのだ。現場検分を命じられた桐野は北村夫妻の話を信じるが、小貫は真っ向からそれを批判するのだった。

 桐野は真面目だが虚弱体質で、美熟女の戸村に翻弄される甘ちゃんでもある。一方の小貫たちごんぞうは一見無気力な怠け者のようだけど、地域の巡回は好きで、住民との世間話をきっかけに単独捜査に乗り出す一面もあった。人情噺主調の演出と見せて、警察の知られざる闇も暴き出していく反転技の妙。著者は『そして父になる』『三度目の殺人』『アルキメデスの大戦』等のノベライズを手がけてきた映画ライターだが、その実力が遺憾なく発揮された傑作である。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2020年1月号掲載〉
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