今月のイチオシ本【デビュー小説】

『愛の言い換え』
渡邊璃生
角川書店

 2018年に惜しまれつつ解散したベイビーレイズJAPANは、6年の活動期間中に武道館公演も達成した中堅クラスの5人組女性アイドルグループ。ライブは何度か観たことがあるし、テレビの冠番組も観てましたが、その最年少メンバーだった渡邊璃生が小説を書いていたとはぜんぜん知らなかったので、デビュー単行本にあたるこの短編集を読んで仰天した。ベビレの末っ子、りおトンが、まさかこんな小説を書くとは……。

 全7編のうち、前半の4編はアイドル時代に書かれたもので(ベビレ最後のライブBDに同梱)、表題作を含む3編が書き下ろし。全体としては恋愛小説集と言えなくもない(し、そのほうが売りやすいだろう)が、〝血の匂いに満ちた、壊れ物たちの恋愛奇譚〟という帯の文句が示すとおり、中身はもっと不穏。支配・被支配と、それを超え過ぎた異形の愛が描かれて、むしろこれは(岸本佐知子流の)変愛小説集か。

 たとえば、巻頭の「ゆうしくんと先生」は、最初は小学生なのにたちまち成長し年をとってゆく〝ゆうしくん〟と、彼を見守る〝先生〟との奇妙な関係を描く鈴木いづみ風の恋愛ファンタジー。

 表題作は〝冴えない女子大生〟が語り手。滑り止めだったFランク大学に通い、神学サークル(!)に所属。近所の古い教会に興味を持ってミサに参加したところ、聖職者志望だというひとつ年上の好青年と知り合って好きになり……という導入から先の展開がすばらしく独特だ。

 同じく書き下ろしの「蹲踞あ」もすごくて、小学生のとき泊まりにいった同級生の女の子の家には、必ず守らなければならない風変わりな日課(午後八時から三十分、蹲踞の姿勢で「あ、あ、あ」と唱えつづける)があって──という話なのだが、その儀式(?)を〝蹲踞あ〟と名づけ題名にしてしまうセンスがすばらしい。愛のかたちはさまざまだが、これだけ妙ちきりんなデザインを思いつける才能は貴重。アイドルというキャリアを終えて作家という新たなキャリアに踏み出した、弱冠20歳の個性的な新人の将来に期待したい。

(文/大森 望)
〈「STORY BOX」2020年7月号掲載〉
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