今月のイチオシ本【ノンフィクション】
『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた〈サピエンス納豆〉』
高野秀行
前作『謎のアジア納豆そして帰ってきた〈日本納豆〉』(新潮文庫)で納豆は日本人だけの食べ物ではない、と証明した著者だが、アジアだけでなくアフリカにも納豆のようなうま味調味料があると聞き及び、調査に赴く。
本当に実在するのか分からないまま、訪れた先はナイジェリア、セネガル、ブルキナファソ。原材料も大豆ではないだけでなく、マメ科でもないものを納豆菌で発酵させることには驚かされる。
イスラム過激派、ボコ・ハラムが台頭しているナイジェリアでは現地に駐在している著者の幼なじみで、味の素株式会社の研究員が同行した。
サハラ砂漠のへりにある大きな村で見た「ダワダワ」は、昨今では手に入りやすい大豆で作ることが多くなっていた。いくつかの手順は違っていたが納豆菌で大豆を発酵させる製法はほぼ一緒だ。本来の原料であるパルキアというマメ科樹木の実でも同様に作られており、きちんと糸を引く「納豆」そのものになった。なぜかパルキアで作ったほうが日本の納豆に近い味だったのだが。
これを潰しせんべい状にして乾燥させると流通しているダワダワになる。出汁として汁物や炒め物などにいれるのだ。
セネガルに行くと同じパルキアを使っても名前は「ネテトウ」となる。納豆に似ていて不思議な感じだ。オクラなどネバネバしたものと一緒にうま味調味料として使うそうだが、日本人で料理のできる人なら、調理法を読んだだけで味が推測できて使ってみたいと思うだろう。
大豆やパルキアが手に入らない場所では、ハイビスカスやバオバブの種でも、納豆菌を発酵させてうま味調味料を作るという。人間の知恵は本当にすごい。
著者が長年知りたいと切望していた、韓国の納豆「チョングッチャン」の秘密が解明される過程は、良質のミステリー小説のようだ。
著者はアジア、アフリカ各国の納豆を持ち帰り、最後にどれが一番美味い納豆を作るのか、日本のものも加えて納豆菌ワールドカップを開催した。著者の執念が結実した納豆はみな美味しそうである。
(文/東 えりか)
〈「STORY BOX」2020年10月号掲載〉