今月のイチオシ本【警察小説】香山二三郎

『凶犬の眼』
柚月裕子
角川書店

 映画『仁義なき戦い』を髣髴させる、警察とヤクザの壮絶な戦いを描いた話題作『孤狼の血』の続篇だ。

 一九八八年春、広島県呉原市で起きた暴力団の抗争事件は二年たった今もくすぶっていた。抗争に深く関わった呉原署の日岡秀一巡査は県警の上層部に煙たがられ、山間の比場郡城山町の駐在所に飛ばされた。本書はその日岡が久しぶりに呉原を訪れ、かつての上司大上章吾巡査部長の馴染みの小料理屋・志乃で、旧知のヤクザの組長たちと顔を合わせるところから幕を開ける。

 そこには見覚えのある三十代の男も同席していた。男は広島の建設会社社長だというが、全国指名手配中の国光寛郎に似ていた。国光は日本最大の暴力団組織・明石組の二次団体・北柴組の若頭。北柴組は明石組の分裂後、新たに結成された心和会につき、三ヶ月前には明石組四代目の暗殺事件を引き起こしていた。国光はその首謀者のひとりだった。日岡は所轄に知らせようとするものの、それを察した国光は自ら正体を明かし、自分にはまだやることが残っているが、目処がついたら、必ず日岡に手錠を嵌めてもらうと約束する。

 二ヶ月後、日岡は相変わらず駐在所暮らしを続けていた。国光との約束で、所轄への通報はやめていた。馴染みの住民からかつて頓挫したゴルフ場の工事が再開されるという話を聞いた日、彼の前に再び国光が現れる。ゴルフ場の工事責任者になったというのだ。日岡はしばらく様子を見ることにするが、ある晩、国光から呼び出しがかかる……。

 前作では、閨秀作家が広島弁の飛び交う何とも男臭い世界に挑んだということからして驚かされたものだが、本書ではその作風をすでに自家薬籠中のものにしている。田舎でくすぶる日岡がやり手の武闘派経済ヤクザと出会い、奇妙な付き合いが始まるが、独自の仁義を貫く彼との絆が次第に深まっていく。

 警察とヤクザの癒着を戒める暴力団新法に逆行するように凶犬の道を歩み始める日岡の姿はもちろん、ヤクザの掟に殉じる国光の硬派な侠客ぶりにも注目。

(「STORY BOX」2018年6月号掲載)

(文/香山二三郎)
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