今月のイチオシ本 【ミステリー小説】

『骨を弔う』
宇佐美まこと
小学館

 川の増水によって抉られた堤防の土中から、人骨らしきものが発見される。警察は事件性を疑うが、調べによりそれが埋められてから数十年経過した、理科の教材などで使われる骨格標本だったことが判明する。いったい誰が、何の目的でわざわざこんな場所に埋めたのか?

 宇佐美まこと『骨を弔う』は、このひと騒がせな出来事を伝える小さな記事を見た主人公──本多豊が、約三十年前の記憶とともに湧き上がる疑念から謎解きに乗り出す長編サスペンスだ。

 当時小学五年生だった豊は、同級生の真実子の提案により、彼女が理科室から盗み出した骨格標本を「骨を弔う」儀式として、哲平、正一、京香を含めた仲間たち五人で確かに埋めに行った。しかし、それは山の奥であり、堤防などではない。もしや自分たちは真実子の口車に乗せられ、じつは本物の人骨を運ばされ、埋めたのではないか──。

 このなんとも気味の悪い謎を明らかにすべく、豊はかつての仲間たち、そして真実子が姉のように慕っていた年上の琴美のもとを訪ね歩く。 少年時代を振り返り、大人になった登場人物たちの人生の変遷や成長の過程で失ってしまった物事を印象的に描き出す物語は、スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』や『IT』を筆頭に数多く存在する。本作の内容もその流れを汲むひとつだが、ひとりひとりの過去や抱えている痛みの掘り下げ方に一切甘い点がなく、読者は息を殺して見守るような気持ちで読み進めることになるはずだ。また、注意すべき要点は明白にもかかわらず容易に真相を見抜かせない絶妙な筆致、遊び心のように思われた箇所がのちに重要な役割を担うことになる意外性も効果的で、ラスト一行をいっそう輝かしく忘れがたいものにしている。

 著者は昨年、『愚者の毒』で日本推理作家協会賞〈長編及び連作短編集部門〉を受賞して以降、上質な作品を続々と発表し、注目度が急上昇中の逸材だ。重みのある物語と手際のいい仕掛けが見事に融合した本作で、さらに広範な読者を獲得することは間違いない。

(文/宇田川拓也)
〈「STORY BOX」2018年7月号掲載〉
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