今月のイチオシ本【デビュー小説】
前回「受賞作なし」に終わった江戸川乱歩賞が満を持して送り出した斉藤詠一『到達不能極』は、2018年と1945年が南極大陸でクロスする大型サスペンス。「賞始まって以来、最大スケールの冒険ロマン爆誕!」と帯にでっかく書くだけあって、話は思いきり派手。
2018年の主人公は、大手旅行代理店勤務のツアーコンダクター、望月拓海。異例の南極ツアーに会社命令で添乗することになり、カンタス航空のチャーター便で南極大陸上空に到達したとき、突如通信が途絶。機体は深刻なシステムトラブルに見舞われ、今は使われていないアメリカのプラトー基地に不時着する。
同じ頃、ドームふじ基地を雪上車で出発した南極観測隊の伊吹哲郎ら一行は、観測用のドローンを失い、基地との連絡を断たれ、途方に暮れていた。そのとき無線機に飛び込んできたのが、カンタス機からの遭難信号。救援に赴いた伊吹たちは、物資調達のため、事故機の乗客の望月拓海、ランディ・ベイカーと、旧ソ連の閉鎖された基地を目指すことになる。その名もポーリゥス・ネドストゥプノスチ、すなわち「到達不能極」基地……。
一方、1945年側の主役は、海軍第一三航空隊に所属する弱冠18歳の星野信之二等飛行兵曹。信之は、一式陸上攻撃機の試作機でペナンを出発、ドイツ人科学者とその娘ロッテをナチスの南極基地へと送り届ける任務を与えられる。ヒトラーの肝煎りでナチスが極秘裏に行っている、起死回生の極秘研究とは?
迫真の南極描写に、美少女とのロマンス、さらには空中戦まで盛り込み、サービス満点。過去と現在が合流し、秘密が明かされるまでは文句なしに読ませる。
問題は(巻末の選評でも指摘されているとおり)恐ろしく大時代なSFネタ。ハリウッド大作映画(「アベンジャーズ」系列とか)ならギリギリありでも、さすがに今の小説でこれはない。失礼ながら思わず笑ってしまったが、話は面白いので、そういうリアリティを気にせずに読める心の広い人なら楽しめるはず。著者は1973年東京都生まれ。千葉大学理学部物理学科卒。