田島芽瑠の「読メル幸せ」第60回

田島芽瑠の読メル幸せ

第60回


4月になりました🌷

柔らかな陽ざしの元で、動き始めた草花や虫たちの様子に春を感じる今日この頃。皆さん衣替えは済みましたか? 桜が咲いた!と思ったらあっという間に緑になって、季節の移り変わりが今年は早く感じました。

4月で上京してちょうど1年を迎えました。
住み出した頃は、どこへ行くにもマップと乗り換え案内がないと進めなかった私も1年でだいぶ道を覚えて何となくで目的地に向かえるようになりました😂あとは、どこで何を買うのが一番安いか覚えてきたり、好きなご飯屋さんができたり、少しずつですが開拓しています。生活で変わったことといえばそのくらいかな~。

帰省したのも全部お仕事だったし、卒業してもこうして続けられているお仕事もあって恵まれた1年でした。楽しかった! 2年目も悔いのない1年にするぞー!

さて、今回おすすめする本はこちら📕
増田忠則さんの『悪意』です。

「読メル幸せ」第60回

まさかの短編集だった! 気付かずに購入したのですが、これがまた面白い。タイトル通り「悪意」が伝染していく物語たち。自分だったらどうするのか、どう思うのか、当事者になって考えてみると何とも嫌な気持ちになる。そんなにページ数が多い訳ではないのですが、一編一編が重く一気読みってよりかは時間をかけて今回は読みました。

私が17歳の時に『イノセント・デイズ』(早見和真著)という小説を読んで、裁判の傍聴に興味を持ち、実際に裁判所に何度か足を運びました。その時に何にもないところからこんな風に罪って生まれてしまうのかと、いつだって私達は罪と隣り合わせで生きているんだと感じたのをこの作品を読んでふと思い出しました。ジワジワと悪意に飲み込まれていく感覚。必死にもがいて、逃げながら私達は毎日を生きているのかもしれないなんて、そんな気持ちにすらなりました。きっと誰にでも起こり得ることなんだって。

「読メル幸せ」第60回

一つ目のお話、「マグノリア通り、曇り」。
娘を誘拐された父親と、飛び降り自殺しようとしている誘拐犯。彼が死ねば娘の居場所はわからない。どうして彼が誘拐したのか、誘拐犯からの電話から始まるこの物語は結末までハラハラが止まりません。何だろう、ぐわって手に汗を握る!という感じよりもずっと鼓動が早い感じ。どうなるんだろう、どうするんだろう、結末読んだら、え!このあとどうなったのって、でも何だか同じように無気力で空を見上げたくなるようなそんな気持ちにもなって。
いろんな視点で感情移入するとぐちゃぐちゃになる。自分だったらどうするか考えても難しすぎて、どんな結末でも正しい答えはないような気がして、ここに正しさを求めてはいけないんだと放棄してしまった。このお話に惹かれて本を購入したのですが、ジトジトしたイヤな雰囲気が途切れることなく最後まで続いているから、他のお話も同じ世界観で楽しむことができてそこが魅力的でした。

ぜひ読んでみてください。
良い本の旅を、田島芽璢でした。

「読メル幸せ」第60回

(次回は2023年5月中旬に更新予定です)


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