【62歳で芥川賞を受賞】森 敦のオススメ作品を紹介!

明治45年生まれ、長崎県出身。62歳の時に第70回芥川賞を受賞しました。今回は森敦のオススメ作品5選をお届けします。

明治45年生まれ、長崎県出身。22歳の時に東京日日新聞、大阪毎日新聞で『酩酊舟〔よいどれぶね〕』の連載をスタートします。同時代に活躍した作家の、太宰治、檀一雄、中原中也などと文芸同人誌『青い花』の創刊にも参加しましたが、作品の発表には至りませんでした。その後は、山ごもりの生活をしたり、印刷会社に勤めるなど、執筆とは距離を置くことになります。そして数十年後、長いブランクを経て執筆活動を再開。1973年に『季刊芸術』に発表した中編『月山』で、第70回芥川賞を受賞した時には62歳でした。 約40年ぶりの作品で芥川賞を受賞するというドラマティックな展開は、当時の社会にも大きなムーブメントを起こすこととなりました。

月山

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4309000673

森敦は、川端康成とともに「新感覚派」と呼ばれた作家である横光利一に師事していたことが知られています。千葉亀雄によると、「新感覚派」とは「暗示と象徴によつて、内部人生全面の存在と意義をわざと小さな穴からのぞかせるやうな、微妙な態度の芸術」。直接的な表現ではなく、暗示や象徴を使って伝えたいことを表現するという手法です。森敦作品の中でも、この手法が非常に高いレベルで使われているのがこの『月山』です。

『月山』は1978年には、映画化もされました。山形県のとある村落にやってきた主人公が、雪深い村で一冬を過ごす物語です。山のふもとにあるお寺の住職に世話になり、精進料理を食べ質素な暮らしを経験しながらいろいろな気持ちの変化とそんな状況でも変わらない気持ちに違和感を感じていく主人公。冬になると外界と遮断され、雪に閉ざされた村では、密造酒やミイラの作成などが行われています。独特な村の風習や暴力性に戸惑う主人公。またそれとは対照的に大自然の美しさも描かれています。

自らに沈黙と流浪の人生を課した不羈の魂が、40年の星霜を経て〈死の山〉月山の淵源に刻みあげた稀有の名篇。他に珠玉作「天沼」を併録する。第70回芥川賞受賞作。

鳥海山

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/B000J97I8Y

秋田県と山形県にまたがる鳥海山の雄大な自然が描かれた作品です。『月山』と同時期に書かれた作品で、手法も『月山』に近く、細かい自然の描写と自然とともに生きる人々の姿が描かれている短編集となっています。熊野の山で道路建設の仕事をしている朝鮮の人々と村人の対立を描いた、『天上の眺め』。その他主人公の妻が登場する『鴎』など、舞台やストーリーもバラエティにとんだ短編集となっています。

遥かに〈死の山〉月山と対峙し、悠揚として聳え立つ鳥海山。その〈生の山〉たるゆえんを、さりげない日々の挿話の裡に解き明す。名作「月山」と姉妹篇をなす珠玉の連作短篇集。

わが青春 わが放浪

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同時期に作家として活動をしていて、プライベートでも交友のあった太宰治や壇一雄らとのエピソードが語られているエッセイ集のような作品になっています。奈良や月山での放浪生活についても語られています。近くにいた人物だからこそ知る太宰治や檀一雄の知られざる一面や貴重なエピソードもたくさん登場しています。

主に新聞の文化欄に掲載された文章だが、どんな短文にも筋が通った森流論理が窺える。

われ逝くもののごとく

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4061963635

野間文芸賞受賞作品。著者自身が放浪していた山形県庄内平野を舞台に、太平洋戦争により崩壊していく一家の物語が描かれています。山形の方言が多用され、日本の風土や宗教について趣のある描写を堪能することができます。

太平洋戦争により崩れゆくサキ一家の変転の歳月と多くの庶民の、生きて死に逝く、“生死一如”の世界。かつての青春放浪の地、山形県庄内平野を舞台に人情味ある土地言葉を駆使しつつ、雄渾に物語る。

浄土

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4061963635

『浄土』、『吹きの夜への想い』、『杢右ェ門の木小屋』、『門脇守之助の生涯』、『アド・バルーン』の5つの短編からなります。月山近くでの暮らしを描いた作品から、現代風の作品まで収録されています。タイトルにもなっている『浄土』は、幼少時、満州に住んでいた時の同級生の少女の記憶から始まるストーリー。お寺の娘であった少女との思い出を振り返りながら、宗教や生と死について描かれている作品です。

遥かな幼い頃共に遊んだ一少女への回想から人生至福の境涯へと限りなく近づく「浄土」、注連寺滞在時代の一挿話「吹きの夜への想い」、森敦宇宙の核とも言うべき「杢右ヱ門の木小屋」。死もまた美しい蘇りの如き仏教的宇宙観を、生涯を賭して生きた森敦晩年の、気韻生動の名品5篇。

最後に

22歳で新聞の連載をスタートするという順調なスタートを切るも、その後は40年近く創作活動から遠ざかっていた、森敦。 山ごもりの生活は多くの作品でも題材となり、作品にも多大な影響を与えています。雄大な大自然の描写の素晴らしさ、そして一つ一つの文章が真に意味するところを読み解きながら理解を深めていくという読書体験を楽しんでみてはいかがでしょうか。

今回紹介した『わが青春 わが放浪』はP+D MAGAZINEで紙と電子の書籍で発売されています。
ためし読みも公開されていますので、是非こちらからチェックしてみてください。

初出:P+D MAGAZINE(2016/08/28)

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