【深夜の友達】ラジオ好きによる、ラジオ好きのための本4選

夜ふかしする人にとって、いつの時代も唯一無二の友達になってくれる“ラジオ”。今回は、架空のラジオ番組をテーマにした小説やラジオパーソナリティによるエッセイなど、“ラジオ好きによるラジオ好きのための本”をご紹介します。

どの時代も、ヘビーリスナーと呼ばれる愛好家たちによって支えられてきたラジオ番組。眠れないときや疲れたとき、ふとラジオから流れてきたなにげない雑談にホッとしたり救われたりした経験を持つ人は、少なくないのではないでしょうか。

今回は、そんな“ラジオへの愛”をテーマとする本を4作品紹介します。実在するラジオ番組を下敷きにした小説や、人気のラジオパーソナリティによるエッセイなど、生粋のラジオ好きによるラジオ好きのための本をお楽しみください。

『明るい夜に出かけて』(佐藤多佳子)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B07QBNQSLT/

2013年から2016年にかけて放送され、一部のファンの間でカルト的人気を誇った伝説の深夜ラジオ『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』シリーズ。自身もリスナーであったという佐藤多佳子による『明るい夜に出かけて』は、このラジオのヘビーリスナーたちの交流を描いた、ラジオ愛溢れる長編小説です。

主人公は、大学生の富山。彼はもともと深夜ラジオが大好きで、有名な“ハガキ職人”でもありましたが、インターネット上に本名や写真をさらされる被害に遭ったことがトラウマになり、現在は大学を休学してコンビニバイトをしています。

人と関わることが不得手な富山は、ある日、軽いボディタッチをしてきた常連の女性客を思わず突き飛ばして怪我をさせてしまったことで、同僚の店員から怒られます。自分でも強い罪悪感を覚え、女性客に謝るために何度も連絡をとろうとする富山ですが、なかなかメールを送信することができません。そんな憂鬱な富山の気分に唯一寄り添ってくれる存在こそが、アルコ&ピースのオールナイトニッポンを始めとする深夜ラジオでした。

眠れそうもなく、食べられそうもないので、机に移動して、パソコンの電源を入れた。(中略)文字を追っても、意味が頭に入ってこない。
もう、こうなると、やることは一つしかなかった。

窓際の本棚の最上段に、ラジオ録音対応のICレコーダーを置いている。ICR-RS110M。もう生産終了している古い型のレコーダーだが、AMラジオの録音機としてマニアの間では有名な機種だ。こいつは、すごくしっかり音を拾ってくれると俺は信頼してるけど、そう言わない人もいる。
AMラジオは中波で、環境によって受信状態がすごく変わる。実家の受信状態は、放送局によって、かなり違った。AMはどこも入りが悪かったが、窓際に置き、ループアンテナを使うことで、何とか録音が可能だった。引っ越しの下見に来た時、俺はこのレコーダーを持参して、ニッポン放送とTBSラジオの受信感度を試してみた。アンテナを使わなくても、窓際なら何とかなりそうだった。(中略)
今はradikoというアプリを使えば、スマホやPCからクリアな音でラジオが聴けて、別のアプリを入れると録音も可能らしいけど、俺は中学時代から使ってるラジオ・レコーダーが好きだ。

聞きたいラジオの電波がなかなか入らないことに悩まされたことのあるラジオ好きであれば、富山のこの努力に「あるある」と強く頷きたくなるのではないでしょうか。作中で彼は、コンビニの客の佐古田という女性が自分と同じくアルコ&ピースのラジオのハガキ職人であることを知り、交流を深めていくとともに、人とコミュニケーションをとることに対してすこしずつ前向きになっていきます。

つらいときにラジオに救われた経験を持っている方や、自分の心の支えになっているラジオ番組がある方にとって、本書は涙なしには読めないはず。読み終えたらすぐに深夜のAMラジオが聞きたくなるような、特別な1冊です。

『アフタートーク』(石井玄)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B07QBNQSLT/

『アフタートーク』は、ニッポン放送の人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のチーフディレクターを10年間務めた石井ひかるが2021年9月に発表した初エッセイ集です。生粋のラジオ好きである石井が、ラジオ番組への愛とラジオ局での仕事について、率直かつ情熱的に語る複数のエッセイが収録されています。

石井は、自身のタイプを分析して“才能も個性もない”と言い切ります。

ぼくはAD時代、嫌というほど才能あるディレクターの下で仕事をしてきた。どんなに頑張っても、自分には才能も個性もないと痛感させられる。「こんなことも出来ないのか」と、怒られてばかりの毎日だった。
それどころか、暗い。無駄に背が高い。服がダサい。姿勢が悪い。声が小さい。センスがない。魅力的なところはひとつもないくせに、劣等感は山ほどある。
人に誇れるものがないぼくにあるのは、「ラジオが好き」という一点のみだった。

ぼくが考えたのは、「全部やる」だ。
どの能力もないのであれば逆にやるべきことは簡単だ。バカな考え方だが、得意なものがなければ全能力を上げればいい。

ラジオの仕事を通じ才能のある人々を多数見てきた石井は、いつからか自分の“無色透明さ”を痛感するとともにそれをいっそ武器にし、どんな番組でも平均点を出せるようになろうと考えるようになったと言います。

自分のアイデアなど表現出来なくていい。自分の個性を出すことは、それぞれの番組の色が同じになってしまうことも意味する。自分が無色透明であることによって、それぞれの番組の個性をもっと出すことにもつながった。
担当していた番組に、ぼくの色の番組はひとつもない。無色透明なぼくが、誰かの色に染まることで、その色をもっと濃くすることが出来る。

自分のアイデアは表現できなくていい、自分の色は一切出さない──という石井の考え方は、ひとりのクリエイターとしては異例のようにも感じられます。しかし、どんな相手にも合わせられ、その人の色に染まることができる石井の個性によって、数多くの名番組が生まれていることも事実です。日々放送されている番組を石井のように誠実かつ堅実なディレクターが支えていることを知って、嬉しくなるラジオ愛好家も多いのではないでしょうか。

本書には『オードリーのオールナイトニッポン』、『三四郎のオールナイトニッポン』、『星野源のオールナイトニッポン』といった大人気番組にまつわる石井のコラムも収録されており、ANNファンや番組の裏話を知りたい方にとっては必読の1冊です。

『想像ラジオ』(いとうせいこう)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B00TX5DLJK/

『想像ラジオ』は、 作家、タレント、クリエイターなど、マルチに活躍するいとうせいこうによる、第35回野間文芸新人賞を受賞した長編小説。本書は2011年の東日本大震災を機に書かれた作品で、死者の声が聞こえる架空のラジオ番組『想像ラジオ』のパーソナリティ・芥川冬助(通称DJアーク)を主人公に据えた物語です。

DJアークは、自分の“想像力”をラジオの電波のようにして駆使し、人々に自分の声を届けています。実はDJアークは震災時の津波によって命を落とした死者であり、彼の番組を聞くことができるのも、同じく亡くなった人々です。しかし時折、現実の世界と混線してしまい、生者にも『想像ラジオ』が聞こえることがあります。生者が死者の声に耳を澄まし、その記憶をなぞり直すことで、想像の中で死者と再会することができるのです。

全編を通して伝わってくるのは、死者が生きた時間を“なかったこと”にはさせない、させたくないという、いとうの強い思いです。作中で、恋人の女性を亡くした男性が、“想像”の中で死者の女性と語り合うシーンにはこのような台詞があります。

「死者と共にこの国を作り直して行くしかないのに、まるで何もなかったように事態にフタをしていく僕らはなんなんだ。この国はどうなっちゃったんだ」
「そうだね」
「木村宙太が言ってた東京大空襲の時も、ガメさんが話していた広島への原爆投下の時も、他の数多くの災害の折も、僕らは死者と手を携えて前に進んできたんじゃないだろうか? しかし、いつからかこの国は死者を抱きしめていることが出来なくなった。それはなぜか?」
「なぜか?」
「声を聴かなくなったんだと思う」
「……」
「亡くなった人はこの世にいない。すぐに忘れて自分の人生を生きるべきだ。まったくそうだ。いつまでもとらわれていたら生き残った人の時間も奪われてしまう。でも、本当にそれだけが正しい道だろうか。亡くなった人の声に時間をかけて耳を傾けて悲しんで悼んで、同時に少しずつ前に歩くんじゃないのか。死者と共に」
「たとえその声が聴こえなくても?」
「ああ、開き直るよ。聴こえなくてもだ」

死者の声を聞くという本書のテーマは、一対一の対話の力を感じさせるラジオというアイテムが用いられることによって、より鮮明になっています。深夜のラジオにそっと耳を傾けるときのような静謐さを楽しみながら、じっくりと味わっていただきたい作品です。

『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる』(佐久間宣行)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B0983816JJ/

『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる』は、2021年春までテレビ東京のプロデューサーとして『ゴッドタン』や『ウレロ』シリーズ、『あちこちオードリー』といった人気バラエティ番組を多数手がけ、現在はフリーのテレビプロデューサーとして活動している佐久間宣行による本です。タイトルどおり、テレビ東京に勤める サラリーマンであった佐久間が、ニッポン放送の大人気ラジオ番組『オールナイトニッポン0』を担当するようになってからのエピソードが綴られています。

本書では、番組の厳選フリートークや、オードリーの若林正恭、放送作家のオークラなどバラエティ好きにはたまらない面々と佐久間との対談を楽しめるほか、佐久間のラジオの魅力でもある、会社員としての働き方や家族についての話、番組構成をどのように考えているかという裏話もエッセイで味わうことができます。

『普通のサラリーマンがラジオパーソナリティになるまで』と題されたエッセイの中では、トークのプロではない自分が、ラジオでの“ひとりしゃべり”をどのように成立させるか熟考を重ねた、と明かしています。

番組を半年くらいやっていくうちに、「大人として仕事をする話」にも興味を持ってもらえることがわかってきたんです。それから徐々に、会社で働くことのおもしろさや大変さなんかもトークに織り交ぜていくようになりました。

実際のトークづくりについては、とにかく日常で起きた出来事をメモするようにしています。「こんなことが起きた」、「こんなことを思った」というのを忘れないうちに書き出しておく。(中略)
選ぶときの基準として、「恥ずかしい~」と思ったとか、感情が動いた出来事のほうがうまく話せる気がしますが、これは本番でしゃべりながら感じるようになったことです。(中略)
やっぱり、単に「こういう事件が起きました」と報告するように話すよりも、まず自分が「いや、ちょっと聞いてくれよ!」っていうテンションになっているほうが、話していても楽しいし、聞いてもらえるんじゃないかと思うんです。

佐久間が語るトークの構成作りの話は、仕事で企画を考えたりプレゼンをしたりする方にとっても参考になりそうな要素が大いにある内容です。番組のファンだけでなく、本業の仕事以外の活動や趣味を始めたいと考えている会社員の方や、企画職の方にもおすすめの1冊です。

おわりに

ラジオパーソナリティを務める芸人やミュージシャン、DJの中には、「『テレビ見てます』と言われるよりも、『ラジオ聞いてます』と言われるほうがうれしい」と公言する人が非常に多いように感じます。テレビやYou Tubeなどの動画コンテンツと比べて、音だけの“静かなメディア”であるラジオを愛する人たちには、独特のひそやかな連帯感や仲間意識があるのかもしれません。

そんなラジオらしさを堪能することができるのが、今回ご紹介した4冊の書籍です。深夜ラジオファンの方はもちろん、派手でも華やかでもない、“小さな声”で語られるエッセイや小説がお好きな方は、ぜひ気になった作品を手にとってみてください。

初出:P+D MAGAZINE(2021/12/07)

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