『ウイルスも認知症も生きづらいのも、すべて歯のせい?』――と思い始めたときこそ、健康寿命を延ばすチャンス!
口腔ケアのプロである歯科医は警告します、「最近、マスクのなかの自分の口臭が気になりませんか?」と。そして「人類史上、私たちのお口の中は最悪な状態を迎えています」と! 風邪や花粉症のときだけ装着していたマスクが、つねに口をおおう生活になって1年半。新しい生活様式とともに、マスクが私たちのお口の中を急激に変えているというのです。
お口の中が汚いと寿命が縮む
マスク生活による弊害について大きな危機感を抱いているのは、歯科医歴30年以上の堀滋(ほり・しげる)先生。何十年も毎日、患者さんのお口の中を見ていますが、とくにコロナ禍の昨年からこう感じているそうです。
「長時間マスクをしていると、息苦しいですよね。だから、無意識に口呼吸になってしまう患者さんが多いんです。すると、口内が乾燥してだ液が不足する。その結果、自浄作用が落ちて、口臭、歯周病、むし歯などの原因になるんです」(以下、カギカッコ内は堀さんのコメント)
さらに、弊害は、歯に直接かかわる歯周病やむし歯だけにはとどまらず、内臓疾患、ひいては健康寿命にも影響が……!
「たとえば、肺炎。高齢者の死亡原因として、がんなどと並んで常に上位にランクインしていますね。口の中が汚いと、
肺炎は、主にウイルスや細菌などの病原体が気道を通って肺に入り炎症を起こす病気です。口腔機能が低下すると、だ液の分泌や食べ物を飲み込む力も落ちてきます。すると、本来食道にいくはずのものが、誤って気道や肺のほうに入ってしまう。この誤嚥により、口の中にいる細菌やウイルスも気道や肺に入り込みます。健康な人なら、抵抗力や免疫力が働いて大事に至ることはあまりありませんが、口腔環境が悪いと口の中にいるたくさんのむし歯菌や歯周病菌が肺に入りこみ、たちまち肺炎を起こしてしまうんですね」
肺だけではなく、血液を介して全身に回ると、さらに深刻な病気を引き起こす原因にもなるといいます。たとえば、やがては命にかかわる病気を引き起こす動脈硬化もそのひとつ。
「歯周病は、歯ぐきに治らない
江戸時代から数えて五代目という医師・歯科医師の家系に生まれた堀滋先生。
歯周病菌が認知症を引き起こす!?
さらに気になるのは、アルツハイマー型認知症との関係です。
「アルツハイマー型認知症の方の脳の髄液から、歯周病菌の中でも特に悪玉といわれるジンジバリス菌が検出されたという報告があり、この菌が脳神経の炎症を引き起こしている可能性があることがわかってきました。つまり、口の中の歯周病菌を減らし、脳に行く菌の量を抑えることが大事なのです」
実際に、堀先生は、認知症治療で有名な白澤卓二医師の患者さんたちの歯周病チェック、および治療を行っています。
「口の中の状態は、全身の健康に深刻な影響を及ぼすものなんです。口の中を診れば、体調の変化や生活環境の変化など、いろいろなことがすごくよくわかります。定期的に口の中を診ていると、糖尿病などほかの病気の早期発見につながることだってあるんですよ。口内環境は、いわばその人の健康のバロメーターみたいなもの。だからこそ、自分の口の中にもっと意識を向けてほしいんです」
そういえば、アメリカでは、“Floss or Die?(フロスしますか、それとも死にますか)”というスローガンもあるほど、歯と全身の健康が深く結びついているのは周知の事実です。
あなたは間違った歯磨きや歯科治療をしているかも
さらに堀先生は、歯、ひいてはお口全体の状況がよくないと、人生の質も落ちて楽しめない、つまり“生きづらさ”にも通じると警告します。
「中高年以降の女性に多い関節リウマチは、歯周病の炎症で増加したサイトカインが深くかかわっているといわれています。“え、骨の病気なのに?”と思われるでしょうが、患者さんの関節組織から歯周病菌に関連した抗体が見つかっているんです。まだ詳しくはわかっていないのですが……。この病気は、関節の変形や痛みに悩まされるため、QOL(Quality Of Life)を著しく低下させる病気のひとつといわれています」
ここまで読んで、「でも自分はちゃんとガシガシ歯磨きしているし、何年も前にむし歯を治療したし、大丈夫」と思ったあなた。その歯磨きで、じつは歯周病を招いているかもしれません。また、間違った歯科医院との付き合い方のせいで、正しく治療しているつもりが、あとで後悔することになるかも!? なぜなら、日常におけるセルフケア方法も私たちの寿命が大きく伸びたせいで、どんどん変わっていっているから。歯科治療や使用材料も、どんどん進化しています。
「ここまで読んで、みなさんが抱えている不調は“すべて歯のせい?”と感じたら、逆にチャンス。いまから、やり直せばいいんです。大事なのは、古びた常識を正しく現代のものに上書きすること。だって、酸いも甘いも噛み分けて、いろいろ失ったものも多い中高年。せめて歯だけは、そして健康寿命は、これ以上失わないようにしませんか?」
堀先生の最新著書『ウイルスも認知症も生きづらいのも、すべて歯のせい?』では、元気な老後をすごすためには口腔ケアがカギ、と気付いた50代女性が、ネホリハホリ歯のケアについて堀先生に質問しています。口腔ケアが大事な理由から、歯間ブラシがキモとなるセルフケア法、さらに、口呼吸改善&老け顔予防となる毎朝5分のお口の筋トレ体操、歯医者さんとの賢い付き合い方まで! Q&A方式だから、難しく思える医療の話がすーっと頭に入ってきます。
さあ、お口の中を見つめ直し、健康寿命も人生も好転させましょう。
『ウイルスも認知症も生きづらいのも、すべて歯のせい?』
堀滋 小学館 定価¥1210(税込)
A5判 128ページ
https://www.shogakukan.co.jp/books/09310686
<ためしよみはこちらから>
https://shogakukan.tameshiyo.me/9784093106863
【著者プロフィール】
堀 滋(ほり・しげる)
歯科医師。サウラデンタルクリニック院長
1959年生まれ。日本大学松戸歯学部卒業。昭和大学歯学部付属歯科病院口腔外科勤務ののち、日本橋中央歯科診療所などを経て、堀歯科診療所を開設。診療の傍ら、スウェーデンのイエテボリ大学で実践されている歯周病臨床実践コース、同アドバンスコース、ペンシルバニア大学アドバンスインプラントコース受講など、海外の最新治療を学び、治療に取り入れている。
2021年、全身の健康につながる医療を追求するため、東京都港区内に自由診療専門のサウラデンタルクリニックを開設。院内には、顔まわりから全身の筋肉ケアのためのリラクゼーションサロンも併設。テレビ朝日『林修の今でしょ!講座』などに出演。著書に『歯のメンテナンス大全 人生100年時代の正しいデンタルケア88のリスト』(飛鳥新社)。
初出:P+D MAGAZINE(2021/08/05)