採れたて本!【国内ミステリ#07】

採れたて本!【国内ミステリ】

 東京地裁で「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある。だから現場が密室である限り、犯人は必ず無罪になる」という奇天烈な判決が下って以来、日本中で密室殺人事件が急増した……という奇想天外な設定の本格ミステリ『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』で、第二十回「このミステリーがすごい!」大賞の文庫グランプリを受賞した新人が鴨崎暖炉である。このデビュー作は、タイトル通り六つのトリックを盛り込んだ、密室の満漢全席とも言うべき一冊だった。

 その著者の第二作が、『密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック』である(なんとトリックが一つ増えている!)。もちろん前作の続篇であり、主人公の男子高校生・葛白香澄も引き続き登場しているが、前作での情報のうち、初めて密室殺人による無罪判決を受けたのが葛白の中学時代の同級生・蜜村漆璃だということを押さえておけば、本書から読みはじめても全く問題ない。

 今回、葛白は大富豪の大富ヶ原蒼大依によって、金網島なる孤島で催される「密室トリックゲーム」に招待された。ところが、ゲームは本物の連続密室殺人事件に発展してしまう。

 エキセントリックにも程がある性格の蒼大依をはじめ、探偵系シンガーソングライター、密室殺人を崇める教団の幹部、ラテン語しか話せない料理人など登場人物は奇人変人揃い。蜜村漆璃に無罪判決を下した元裁判官の黒川ちよりまでいて、蜜村と火花を散らしつつ推理合戦を繰り広げるのだから、物語のカオス具合は尋常ではない。

 しかも、あらゆる密室トリックに通暁しているため「密室全覧」と呼ばれる殺し屋が島にいる人々の中に紛れ込み、蒼大依を含む数人の命を狙っていることが冒頭で明かされる。相次ぐ殺人は「密室全覧」の仕業なのか、それとも別人の犯行なのか。

 作中の密室トリックは想像すると絵になるものが多くて楽しいけれども、密室内の斬首トリックのように、血液の飛び散り方や傷口の具合などを見れば一発でバレてしまうのではと感じるものもあるので、あまり細かいことを気にする読者には向かないかも知れない。一方、著者が物理的トリックの案出以外でもミステリ的なセンスを発揮する作家であることを窺わせる箇所もあって、前作とは異なる魅力も感じる。

 ここまでの二作のタイトルから類推すると、シリーズが続けば続くほどトリックの数も増える筈だが、どこまで増やせるかを見届けたい気分になる。

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック

『密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック
鴨崎暖炉
宝島社文庫

〈「STORY BOX」2023年2月号掲載〉

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