採れたて本!【国内ミステリ#03】

採れたて本!【国内ミステリ】

 本格ミステリにおいて、フェアプレイを重んじることと、意外な真相を表現することとは、実は両立がかなり難しい。というのも、フェアであろうとして丁寧に手掛かりを配置し、謎解きのロジックも厳密であろうとすればするほど、読者が真剣に推理すれば真相が見えてしまうからだ。本格ミステリの歴代名作を思い浮かべても、論理性と意外性を両立させた作品もあるものの(だからこそ名作として残っているわけだが)、大抵の作品は読みどころがいずれかに偏っているように感じる。

 さてここに、フェアな論理性と真相の意外性とを兼ね備えた快作が登場した。楠谷佑の新刊『ルームメイトと謎解きを』である。著者は一九九八年生まれで、高校在学中の二○一六年に『無気力探偵〜面倒な事件、お断り〜』でデビュー、単著は『ルームメイトと謎解きを』が六冊目にあたる。

 埼玉県北部の霧森町にある私立霧森学院は、中高一貫の全寮制男子校。生徒の多くは校舎の隣の新しい寮に住んでいるが、主人公である高等部二年で空手部員の兎川雛太らは、古びている上に前年にある事件が起こった曰くつきの旧館「あすなろ館」で暮らしている。ある日、鷹宮絵愛という転入生が雛太のルームメイトとなったが、雛太は無愛想な絵愛に反撥する。どうやら絵愛は、動物にしか心を開かないらしい。

 このようにして物語は、ワトソン役である語り手・雛太と、優秀な頭脳の持ち主だが変人の探偵役・絵愛の出会いからスタートするが、その日が初対面の雛太が空手部員であることを絵愛が見抜くあたりは、シャーロック・ホームズ以来の伝統的趣向を踏襲している。

 やがて学院では、寮生が階段から突き落とされて負傷し、新校舎で生物部の金魚が殺されるなどの変事が相次ぎ、事態はついに殺人事件にまで発展してしまう。しかも、犯人はあすなろ館の住人としか考えられない状況だった。互いに気心が知れている筈の寮生仲間が殺人犯なのか? 初対面の印象とは異なって意外と義俠心が強い絵愛が事件解明に乗り出すのだが、彼が武器とするのは消去法推理。ラスト、彼は関係者一同を集めて犯人たり得る条件を絞り込み、容疑者を次々と外してゆく。その論理はフェアそのものだが、にもかかわらず、読者はこの犯人を当てることは難しいのではないか──条件を満たす唯一の人物であるにもかかわらず。

 論理性と意外性の両立に成功した意欲的な本格ミステリが、若手作家の手によって世に送られたことを言祝ぎたい。

ルームメイトと謎解きを

『ルームメイトと謎解きを』
楠谷 佑
ポプラ社

〈「STORY BOX」2022年6月号掲載〉

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