採れたて本!【国内ミステリ#04】
例えば芦沢央の『許されようとは思いません』や『汚れた手をそこで拭かない』、阿津川辰海の『透明人間は密室に潜む』、曽根圭介の『腸詰小僧 曽根圭介短編集』、矢樹純の『夫の骨』や『妻は忘れない』等々、ミステリ界ではここ数年、高水準なノン・シリーズ短篇集が幾つも上梓されている。中でも、どんでん返しの冴えという点で白眉なのが結城真一郎の『#真相をお話しします』だ。
本書は、第七十四回日本推理作家協会賞短編部門受賞作「#拡散希望」を含む著者の初短篇集である。第五回新潮ミステリー大賞を受賞したデビュー作『名もなき星の哀歌』、夢がモチーフの特殊設定ミステリ『プロジェクト・インソムニア』、社会派的テーマと緻密なアリバイ崩しとを両立させて第二十二回本格ミステリ大賞の候補になった『救国ゲーム』……と、長篇で着々と腕を上げてきた著者が、短篇でも尋常ならざる腕前の持ち主であることを証明した一冊だ。
本書の収録作に共通しているのは、フーダニット(誰が犯人か)やホワイダニット(動機は何か)ではなく(それらの要素を含む作品もあるが)、そもそも「何が起こっているのか」を謎の主眼とするホワットダニットである。例えば冒頭の「惨者面談」を読んでみよう。家庭教師の派遣サービス業に従事している大学生の片桐は、小学六年生の男の子がいる矢野家を訪問する。ところが、前もって訪問日時を告げてあったにもかかわらず母親はそれを覚えておらず、しかも片桐が自己紹介や会社の説明をしているあいだも心ここにあらずの状態だった……。こう紹介すると、ミステリファンはこの謎に幾つかの回答を思いつくだろう。ところが、著者はその予想の更に上をゆく意外な真相を用意しているのだ。
その他の作品も、冒頭からは想像もつかない地点へと読者を引っぱってゆく、ひねりにひねった逸品ばかり。「ヤリモク」のマッチングアプリによるナンパや「三角奸計」のリモート飲み会など、現代の世相の絡ませ方も絶妙だ。
日本推理作家協会賞受賞作「#拡散希望」は、正統派フーダニットとしての伏線が張られた一篇。しかし、子供が四人しかいない島で、殺人事件が起きてから何故か住民が子供たちによそよそしくなった……という奇妙なホワットダニットを軸にした物語であることに変わりはないし、ミニマムな設定と見えたぶん、解決篇のスケール感には仰天させられる。
ブラックな味わいと切れ味鋭いどんでん返しに満ちた本書には、ミステリの醍醐味が驚くべき濃度で凝縮されている。
『#真相をお話しします』
結城真一郎
新潮社
〈「STORY BOX」2022年8月号掲載〉